第2話 ゲーム開始まであと1日


 なんで……なんで、よりにもよってあの伝説のクソゲー『突然イケメンの兄弟ができちゃいました!?』の世界なの!?

 なんでよりにもよってヒロインなの!?




 死ぬ可能性100%の未来を受け入れられずにいると、ふと自分の視界の中に変なものがあることに気がついた。

 私の目の前に、文字がある。

 

『ゲーム開始まであと1日』


 ゲームの中でよく見た、アンティークフレームに囲まれた独特のフォントの文字。

 チカチカと白く光っているその文字は、なんと空中に浮かび上がっている。



「ゲーム開始まで、あと1日……?」



 読み上げると、その文字はスゥッと消えていった。

 まるでゲーム画面を見ているような錯覚に陥る。何度も何度も、このフレームに囲まれた文字を見てきた。



「ちょっと……待ってよ。本当にあのゲームが始まるの……?」



 この家に連れてこられたときは、なぜわざわざ身代わりが必要なのか何もわからなかった。

 けど、前世を思い出した今ならわかる。


 このゲームの攻略対象者は、ワトフォード公爵家の3兄弟。

 家族にすら冷徹非道な長男エリオット、短気で野蛮な次男ディラン、本以外興味ない無気力な三男レオン。


 攻略対象といっても、目的はこの3人と恋愛をすることじゃない。

 好感度を上げて、『私を家族と認めさせること』が目的だ。


 家族だと認めてもらえたら、私はワトフォード家の娘として婚約者と結婚をして幸せになれる。

 これがこのゲームのハッピーエンドクリアだ。




 でも、もし好感度が0%になったら……本物の娘が現れて、用無しとなった私は口封じとして殺される……!




 前世の私は数えきれないほどこのゲームをやったけど、結局一度もクリアすることができなかった。

 どの選択肢を選んでも好感度の上がらないクソゲー。それがこのゲームだからだ。




 ああっ! もう! 嘘でしょ!?

 このままだと、私は確実に殺されちゃう!!




 ベッドに飛び込み、ボスッと枕に顔を埋めて頭を抱える。

 泣き出したいような暴れ出したいような黒く渦巻く感情の中で、どこか冷静に現状を受け入れている自分がいる。



「……でも、そっか。だからこの家の人たちはみんな私に冷たかったんだ」



 家族として呼ばれたと勘違いした私に、3兄弟も使用人たちも誰も笑いかけてはくれなかった。

 優しい言葉をかけてはくれなかった。

 綺麗な部屋や服は用意してあったけど、それだけ。


 なぜ私はここにいるのか、なぜこの家に連れてこられたのか、その意味を見出せない1ヵ月だった。




 妹の身代わりと言いつつ、私をフェリシーと呼んで決して妹の名前で呼んでくることはなかった……。

 それもこれも全部、裏を知ったら納得だわ。




 ワトフォード家の娘の身代わりが必要だった理由。

 それは、ルーカス・クロスターとの婚約を破棄にしたくなかったから。


 クロスター公爵家との繋がりがほしかった長男エリオットは、妹が行方不明になった事実を隠し、身代わりを用意したのだ。




 3人のうち誰かの好感度を100%にできれば、私はルーカス・クロスターと結婚する。

 でも、0%になったら……。




「………………うん。逃げよう」



 ムクッと枕から顔を離し、起き上がる。

 



 死ぬのは嫌!!

 それに、前世を思い出した以上、好きでもない男と結婚するのも嫌!!!




 ゲームの設定上、私の好感度が0%になるまで本当の妹は出てこない。

 でも、本当の妹は今もこの国のどこかにいるはずだ。




 本物の妹……エリーゼが見つかったとき、「もっと早く見つかっていたら、お前は田舎に帰してやったのに」ってセリフがあったわ!

 つまり、早い段階でエリーゼを見つけられれば、私は殺されずに済むかもしれない!




 前世の記憶があれば、1番好感度を下げない選択肢を選ぶことができる。

 それで好感度が0%にならないようできるだけ長く引き延ばして、その間にエリーゼを見つけるしかない。


 エリーゼ発見時の好感度によっては、彼女を見つけても殺されてしまう可能性はある。

 もし殺される可能性が高そうなら、エリーゼを家に届けてすぐに逃げるしかない。


 本物の妹が現れれば、わざわざ私を追って捜すことはしないだろう。……たぶん。




 とにかく、エリーゼを見つけられるかどうかに私の人生がかかってるわ!

 



「絶対にエリーゼを見つけて、このゲームを離脱してやる!!」

 

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