攻略不可能なクソゲーのヒロインに転生していたので、殺される前に離脱したい 〜溺愛ルート? 何それ?〜

菜々

第1話 攻略不可能なクソゲーのヒロインに転生していました


「ああっ! また死んだ!!」



 私はスマホ画面から目を離し、すぐ下にある枕にボスッと顔をうずめた。

 仕事終わりにベッドの上でゲームをする──その楽しみのために1日がんばって働いてきたというのに、気分は最悪だ。


 時計を見るとすでに深夜の3時になっていた。




 あーー……やばい。

 明日も6時起きだっていうのに……3時間しか寝れないじゃん。




 早く寝なければ。

 明日も仕事なんだから。

 そう頭ではわかっているのに、私はスマホに映るゲームのデザイン画をジッと見つめた。


 横に並んだ煌びやかな3人のイケメン。

 このゲームの攻略対象者たちだ。



「この綺麗なイラストに騙されたわ……。まさか、こんなにも攻略不可能なクソゲーだったなんて……」



 あまりにも攻略できないので検索をかけたところ、次から次へと『クソゲー』『ふざけんな。時間を返せ』などのクレームばかりを見る羽目になった。


 それを見てすぐに止めればよかったのに、そこで「それでも絶対に攻略してやる!」と意気込んでしまったのがそもそもの間違いだった。




 だって、まさか1人も攻略できないなんて!!

 しかも誰1人として好感度20%以上にならないっておかしくない!? ……まぁ、おかしいからこれだけボロボロに評価されてるんだろうけど!

 



「ああ……もう諦めようかなぁ……」



 1週間かけてやってきて最高好感度が17%だなんて、さすがにやる気もなくなるというものだ。

 むしろ、よくここまで続けたと自分を褒めてあげたい。


 だんだんと重くなっていく瞼を擦り、スマホの画面を見る。



『このゲームを最初からやり直しますか? はい・いいえ』


 

 好感度がゼロになり、最悪なエンドを迎えたあとに出てくる画面だ。

 いったいこの1週間で何度この画面を見たことか。




 最後にあと1回だけ……!




 ゲームは明日やろう。

 とりあえずリセットボタンだけ。

 ほぼ無意識のまま『はい』を押した私は、そのまま眠りについた。






***




 


「ハァッ!?」



 変な奇声を上げながら、ガバッと飛び起きる。

 ふかふかのベッドで寝ていただけなのに、長距離走ったあとのように体中が熱く息が弾んでいる。



「ハァッ……ハァッ……。い、今の記憶は……!?」



 アバントラ王国首都にある、ワトフォード公爵邸に住んでいる私、フェリシー17歳。

 ある日、いきなり前世を思い出しました。




 な、なんで急に前世の記憶が!?




 スマホゲームが大好きな24歳のO Lだった私。

 つい先ほど思い出したばかりの自分の前世は、まるで昨日のことのように鮮明に映像化されていた。




 最低でも17年以上前のことなのに、なんでこんなにハッキリ思い出せるの??

 何これ? どうなってるの?




 先ほどの記憶だけではない。

 よく通っていたお店のご飯、推しのイラストレーターさんの絵、ムカつく上司の顔まで鮮明に思い出せる。


 ただ、自分の最期については全然思い出せない。

 さっき思い出した場面が最後で、それ以降の記憶がない。




 あれ? 私、いつどうやって死んじゃったんだっけ?

 なんでそこだけ思い出せないんだろう……。




 自分がなぜ死んだのかはわからないけど、どうやら新しく生まれ変わった世界は前世で言うところの異世界らしい。

 髪の色や瞳の色がみんなカラフルで統一していないし、貴族やら馬車やらよく読んでいた漫画やゲームの世界観そのままだ。



「……異世界って本当にあったんだ……」



 ボーーッとした状態のままそう呟いたとき、コンコンコンという素早いノックとともにすぐ部屋のドアがガチャッと開いた。


 ノックの意味がまるでない。

 そんな無意味ノックをしたメイドのマゼランは、私を見るなり不快そうに目を細めた。



「起きていたんですね。フェリシー様」


「…………」


 

 肩まである水色のストレートな髪、白いフリフリのエプロンをつけたメイド服に、頭についたレースのヘッドアクセ。

 見慣れた姿のはずなのに、前世を思い出したあとだからか非常に違和感がある。




 本物のメイドさんだ!!!

 髪も水色って!! すごい! 異世界すごい!




 謎の感動に包まれている私を、マゼランは遠慮することなく睨みつけてくる。



「なんですか? 先ほど頭を強く打たれてたけど、そのせいでおかしくなりました?」


「え? 私、頭を強く打ったの?」


「はい。記憶にないんですか?」


「…………」




 も、もしかして、その衝撃で前世を思い出しちゃったってこと?




「とりあえず意識は戻ったようなので、エリオット様とディラン様に報告してきます」



 私の様子がおかしいと言うわりには、心配する素振りもないままマゼランは部屋から出ていった。

 そんな態度には今さら驚いたりしない。




 報告しなきゃいけないから様子を見に来ただけなのね。それより……。




 すぐにベッドから降りて、私は全身鏡の前に立った。

 改めて自分の姿を確認するためだ。



「……すごい可愛い……っ! 私って、こんなに可愛かったの……?」



 真っ白な肌に、まつ毛の長い大きな目。赤い瞳は、ルビーのように輝いて見える。

 ゆるふわなピンク色の髪には艶があり、手足も長くてとても細い。

 17年間特になんとも思ってなかったけど、今ならどれだけ恵まれた容姿なのかがよくわかる。




 ダイエットいらずの体型に、生まれ持っての美少女……!

 異世界ってやっぱりすごい!!




「……でも、家族運がないのは同じか」




 鏡の中の美少女が、少し悲しそうにフッと笑う。


 思い出したばかりの前世の自分。身寄りがなく、18歳で孤児院を出て働きながら1人で暮らしていた。

 今の私も、幼い頃に両親を亡くしてずっと孤児院で暮らしていた。




 ……せっかく生まれ変わったのに、また家族がいない人生だったなんて。私って本当に運がないんだな。

 今はこんな綺麗な家に住めてるけど、それも身代わりとしてだし……。




 田舎の孤児院でひっそりと暮らしていた私は、1ヵ月前突然このワトフォード公爵家に連れてこられた。

 その理由は、行方不明になった公爵家の長女に私がそっくりだったから。


 詳しい事情はわからないけど、その子の身代わりとして来てほしいのだと代理人の方に言われた。

 孤児の平民だった私に、選択肢はなかった──。




 身代わりっていっても本当の家族として接してもらえてるわけじゃないし、なんのための身代わりなのかよくわかんないんだよね。

 なんか、まるでさっき思い出したゲームみたいっていうか…………ん?




 そこまで考えて、何かが閃いたような感覚が走る。

 


「……ちょっと待って。これって、あのゲームの設定と一緒なんじゃ……」



 ついさっき思い出した前世で、私がやっていたゲーム。あのゲームヒロインの設定と、今の私の状況が同じなのだ。




 っていうか、フェリシーって名前もヒロインの名前と一緒じゃない?

 この家の3兄弟の名前も……エリオットにディランにレオン……みんな同じ!!




 ドッドッドッと速まる鼓動を感じながら、頭の中にはそのゲーム画面が浮かんでいた。

 煌びやかに並ぶ、美しい3人の攻略対象者たち──その3人は、まさにこの家の3兄弟の顔そのものだ。




 待って。……待って!!!

 もしかして私、あのゲームの世界に転生してたの!?




 何度チャレンジしても一度もクリアできなかった、伝説のクソゲー。

 好感度がゼロになったヒロインに待っているのは……死だ。




 嘘……!

 このままじゃ私、あの3兄弟に殺されちゃう!!!

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