第25話 意味不明な態度のディラン


 突然笑い出したディランを、黙ったまま見守るしかできない私。

 声をかけていいのか、見ないフリをしたほうがいいのか……と迷うけど、反応が怖いため何もできない。




 どうしよう……。

 これは成功なの? 失敗なの?




 フーー……フーー……と息を整え始めたディランは、急にジロリと私を睨んできた。




「おい。毒味として、どれか1つお前が先に食べろ」


「えっ? 食べてくださるんですか?」


「? 作らせたんだから、当然だろ?」




 嘘っ! このイベント、どの選択肢を選んでも食べてくれなかったのに!

 ってことは、これは合格?




「早く食べろ」


「はっ、はい!」



 驚いてポカンとしてしまったせいで、ディランに急かされてしまった。

 ここで好感度を下げるわけにはいかないと、慌ててクッキーを食べようとする……が……。




 これ、3兄弟の誰を食べたらいいの!?




「あの、どちらを……」


「……エリオットの顔のやつ」


「はい。では、いただきます」




 まさかのエリオット!?

 これ、私がエリオットの顔クッキーを食べたって、あとで本人にチクったりしないよね?




 そんな不安を抱きながらも、クッキーを口に運ぶ。

 パキッとクッキーが割れた瞬間、ディランと後ろにいるビトから「フッ」と息が漏れたような音が聞こえた気がした。


 心なしか、ディランの肩が小刻みに震えている気がするのは気のせいだろうか。




 なんだろう? なんか今日のディランは変……。

 っていうか、このクッキーめちゃくちゃ美味しいんですけど!?

 



「どうだ? 俺に食べさせられるような出来なんだろうな?」


「はいっ。とっても美味しいですっ」


「!」



 想像以上のクッキーの美味しさに感動して、ついディランに向かって明るく答えてしまった。

 ハッと我に返って真顔に戻したけれど、なぜかディランは私から顔をそらしている。




 や……やばい!!

 図々しい態度だって怒られちゃうかな!?




 謝ったほうがいいのか迷っていると、ディランは無言で自分の顔のクッキーを手に取り、そのままパクッと食べてしまった。




 えっ? いきなり食べた!!




 ディランが何を考えているのかわからない。

 でも、今はそんなことよりもクッキーの感想を聞くほうが大事だ。


 このイベント、成功したのか失敗したのか……。



「あの、いかがでしょうか……?」


「…………」



 恐る恐る問いかけてみたけど、返事はない。

 ディランは私から顔をそらしたまま、今度はレオンの顔のクッキーを口に入れた。




 ええっ? 2枚食べた!?




「…………」


「…………」



 パキッボリボリボリ……


 ディランの口の中で、クッキーが乱暴に噛み砕かれている音がする。

 それらを一気にゴクンッと飲み込むと、やっとディランがこちらに顔を向けた。


 いつもは眉を吊り上げて見下してくるような顔をしているのに、今はどこか気まずそうに苦々しい顔をしている。

 こんなディランの顔を見るのは初めてだ。




 な、何? この顔……。




「……これで……」


「?」


「これでエリーゼの代わりになれたとか思ってんじゃねーぞ!? お前なんかまだまだなんだからな!」




 は?




 意味不明なことを叫ぶなり、ディランはガタッと椅子から立ち上がって部屋から出ていってしまった。

 その場には、ポカンと立ち尽くす私とビトだけが残っている。




 いや。意味わかんないんですけど!?

 クッキーの感想は!?

 このイベントの結果は!?

 エリーゼの代わりになれたとか、そんな話どっから出てきた!?

 そんなこと思ってないし!!

 ってゆーか、ここあなたの部屋ですけど!?




 頭の中ではディランへのツッコミが止まらない。

 でもこれらを全部口にすることなんてできないため、とりあえずビトに視線を送ってみた。


 私の困惑が伝わったのか、ビトがそっとドアを指差す。



「……我々も行きますか?」


「……そうね」



 テーブルの上にあるお皿を手に取り、2人でディランの部屋を出た。

 さっきのは、いったいなんだったんだ……と呆然としながらトボトボ廊下を歩いていく。




 とりあえず、好感度を見ればさっきのイベントが成功したかどうかわかるよね……?




 視界の端にある本のマークにそっと触れて、マイページを表示させる。



『好感度


 エリオット……12%

 ディラン……30%

 レオン……17%

 ビト……47%』




 ディラン……30%……?




「えええええっ!?」


「!? どうしました? フェリシー様!」


「あっ。な、なんでもないのっ」


「?」



 廊下を歩きながら突然大声を上げた私を、ビトが不思議そうな目で見てくる。

 なんとか平静を装ったけど、心臓はバクバクと激しく動揺していた。




 30%!? あれ!? 前って11%じゃなかった?

 え? 20%近く、一気に上がった??


 ってゆーか……30%?????




 私がこれほど動揺するのも無理はない。

 だって、ゲームでは各キャラの好感度が20%以上になったことなんてなかったからだ。




 30%とか初めて見た!!! なんで!?

 あのクッキー、そんなに気に入ってもらえたってこと?




 最後は意味不明のセリフを発していたけれど、最初はクッキーを見て爆笑していた。

 あれで、きっと好感度を上げることに成功したのだろう。




 よくわかんないけど、ラッキー!!!

 がんばって3兄弟の顔クッキー作ってよかった!!!

 

 ……ところで……これ、文字がピンク色になってる?




 よくよく見てみると、ディランの好感度だけ白い文字ではなく薄いピンク色になっている。

 本当に薄いので、ぱっと見ではわからなかった。

 でも、白い文字の中でそこだけ色が違うのはわかる。




 何これ? バグ? 文字の色が変わるとかあるの?

 あ。30%超えたらピンク色になるとか?

 でもビトは47%もあるのに白い色のままだし……何これ?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る