第8話 エリーゼ捜しを開始します!
「よし! なんとか街に着いたわ!」
初めての外出だけど、ワトフォード家から街まではそんなに遠くないためなんとか迷わず来ることができた。
王都の街の都会ぶりに少し恐縮しているけど、初めての東京に比べたら可愛いものだ。
東京駅の中に比べたら、こっちのほうが余裕な気持ちで歩けるわっ。
賑やかな露店が並ぶ通りをスタスタと通りすぎていく。
すでに行きたい場所は決まっているのだ。
「さあ。まずはここから1番近い孤児院に行くわよ!」
なぜ孤児院に向かうのかというと、ゲームでエリーゼが戻ってきた場面で『記憶をなくして、ずっと孤児院にお世話になっていた』と説明があったからだ。
行方不明になっている間……つまり今、エリーゼはどこかの孤児院にいるということになる。
どの孤児院かはわからないけど、1軒1軒孤児院を回っていけばエリーゼを見つけられるはず!!
エリーゼの身代わりとして引き取られたとはいえ、今の私には協力してくれる使用人はいないし、たくさんの人を雇えるお金も持っていない。
古くさい方法だけど、自分の足で確認していくしかない。
「えっと、さっき街の人に聞いた1番近い孤児院は――……この角を曲がるのかな……?」
ブツブツ言いながら建物の角を曲がると、少し奥に古い教会が見えた。
この国では、教会の横に孤児院があることが多いのだ。
あった、あった!
もしここにエリーゼがいたら、さっそくゲーム離脱完了しちゃうかもっ。
ウキウキでその教会に向かうと、外で遊んでいる子どもたちが目に入った。
2〜9歳くらいの子どもたちがキャッキャッと楽しそうに追いかけっこをしている。
この孤児院の子たちかな?
あまり人通りのない場所だからか、立ち止まって子どもたちをジッと見ているとすぐに気づかれてしまった。
この中の最年長っぽい女の子が近くまで駆け寄ってくる。
「何か用ですか?」
「あ。えっと……この孤児院に、私と同じ年くらいの女の子はいるかしら?」
「お姉ちゃんと同じくらいの……?」
「うん。茶色の髪の毛で──」
「待ってて!!」
「えっ」
髪の特徴を伝えると、女の子は目をキラッと輝かせて建物に向かって走っていってしまった。
取り残された私と他の子どもたちは、ポカンとしてその後ろ姿を目で追っている。
待っててって、もしかして本当にここにエリーゼが……!?
まさかの反応に胸を躍らせていると、今度は3歳くらいの小さな女の子がトコトコとやってきた。
自分の体の半分くらいはありそうな大きな本を抱えている。
「おねえちゃん。これよんでー」
「え……」
女の子は、ニコニコしながらその大きな本を私に差し出してきた。
まだ赤ちゃんのような幼い声としゃべり方が可愛くて、キュンと胸がときめいてしまう。
か、可愛いっ!!
「いいよー」
「ありあとー」
本を受け取ると、ニコッと愛らしい笑顔でお礼を言われた。
あまりの可愛さに『可愛い!!!』と叫んで頬ずりしたい欲に駆られたけれど、なんとか理性でそれを止める。
ワトフォード家の悪魔兄弟に会ったあとだからか、この子が天使に見える……!
待ってて。今、お姉ちゃんがこの本を読んであげ…………ん?
受け取った本を開いた瞬間、その中身のおかしさに思わず首を傾げてしまった。
小さい文字でびっしりと埋まった、小難しい内容の本だったからだ。
何これ? 児童書じゃないの?
どう見ても、大人向けの小説のような……。
出てくる言葉は難しいものばかりだし、主人公は探偵らしい。この本が子ども向けではないことは明らかだ。
間違ってこの本を持ってきちゃったのかな?
どうしよう……こんな長編全部読めないし、この子だってきっと理解できないよね?
だったら、無理にこの本を読まなくても……。
パタンと優しく本を閉じると、私は女の子に少しだけ顔を近づけた。
「ねえ。お姉ちゃんが作ったお話でもいい?」
「うん。いいよー」
「ありがとう」
待って。素直すぎない!? なんでこんなに可愛いの!?
天使のような女の子に喜んでもらえそうな話は……と考えて、私はシンデレラを話すことにした。
「シンデレラは意地悪な継母やお姉さんたちにいじめられて……」
「でも魔法使いが素敵なドレスを……」
「そこでシンデレラがガラスの靴を履くと……」
目を輝かせたり眉を下げたり、今の感情がそのまま顔に出る女の子。
その反応を可愛いと思いながら話していると、1人、また1人と、子どもが増えていっていることに気づいた。
みんな聞いてくれてる?
嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいな。
「……シンデレラは王子様と幸せに暮らしました。おしまい」
わあ……っと、歓声とともに拍手をされる。
気がつけば、いつの間にか10人以上の子どもが私の周りに集まってきていた。
「お姉ちゃん、すごい! すっごくおもしろかった!」
「もっと聞きたい!」
「他のお話は!?」
全員から一気にまくしたてられて、どこから返事をしていいのかわからない。
な、なんか、想像以上に気に入ってもらえたみたい!?
嬉しいものの、少し複雑だ。
褒められてはいるけれど、この話を考えたのは私ではないからだ。
前世ではみんな知ってる話なんだけど……この世界には、童話はないのかな?
そんなことを考えていると、背後からパチパチと拍手の音が聞こえた。
「すごいですね。とってもおもしろかったです」
「え……」
振り返ると、最初に声をかけた女の子と18歳くらいの茶髪の女の子が立っていた。
2人とも笑顔で私に向かって拍手をしてくれている。
茶髪の女の子……!
エリーゼ!?
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