第34話 私が男性と2人で会ったからって、なんでディランが怒るの?


  なぜか、眉を吊り上げたディランが腕を組んで玄関ホールのど真ん中に立っている。

 帰宅してきた私に驚くことなくジロッと睨んできたため、彼がここにいる理由はどうやら私らしい。




 な、何!?




「お前……街で男と会ってたらしいな」


「!」




 見られた!? メイドか誰かがたまたま街にいたの?

 ってかディランの言いなりメイド、よく私に遭遇するなぁ!!




 前は、レオンと中庭で話しているのを目撃されてディランにチクられた。

 まさか屋敷の外でも目撃されてしまうなんて。

 しかも、あのルーカスと一緒にいるところを──。




 どうしよう……!

 エリーゼの婚約者と一緒にお茶したなんて、ディランがキレるのも当然!




「あのっ、あの方とは偶然……」


「今までもちょこちょこと街に行っていたようだが、男漁りが目的か?」


「ちがっ……」


「どこの馬の骨ともわからない男と、よく2人で食事なんてできるな」



 

 …………ん?

 どこの馬の骨ともわからない男?

 もしかして、相手がエリーゼの婚約者のルーカスだって知らない?




 よく考えたら、私を目撃したメイドがルーカスの顔を知らない可能性は高い。

 一度もこの家に来たことがないんだし、そもそもクロスター家の息子とエリーゼが婚約していることすら知らないのかもしれない。




 よくわかんないけどラッキー!!

 相手がルーカスだってバレてないなら、何も問題ないじゃん!

 ……ん? でも、ならなんでディランはこんなに怒ってるの?



 

「……あの方には今日助けていただいたので、お礼をお伝えしていただけです」


「お礼? それならただその場で言えばいいだけだろ! なんでわざわざ一緒に店に入る必要があるんだよ!?」




 ???

 だから、なんで怒ってんだ、コイツ。

 そんなのディランに関係ないじゃん。


 


「私が男性とお店に入ったら、何か不都合でもあるのですか?」


「はあ!?」



 疑問をそのまま口に出すと、なぜかディランは顔を真っ赤にして慌てだした。

 こんなに顔が赤くなっているディランを見るのは初めてだ。



「な、何言ってんだ!? なんでお前が男と店に入ることが、俺にとって不都合なんだよ! 別にどうでもいいに決まってんだろ!?」


「でしたら、何も問題ないのでは……」


「お、俺はどうでもいいけど、この家にとったら不都合なんだよ! お前はエリーゼの身代わりなんだろ!?」


「エリーゼ様の名前もワトフォード家の名前も出していません。それに、ディラン様は私がエリーゼ様の身代わりだと認めていないのでは……」


「!? う……るさい! とにかく、男漁りはやめろ!!」




 そう言い捨てるなり、ディランはスタスタと早歩きでどこかに行ってしまった。

 ポカーーンとした私とビトが、その場に残される。




 なんだったんだ……。

 この前から、ディランちょっとおかしくない?




 前からよく怒っている短気キャラではあるけど、さっきのディランは今までのディランとは全然違う。

 怒っていても、威圧感とか迫力がまったくないのだ。

 

 まるで、反抗期の小さな子どもに文句を言われたときのような、理不尽さと素直じゃない言動が合わさった態度に見えた。




 好感度が上がったから、変わったのかな?




 とはいえ、まだまだ嫌われていることには変わりないみたいだけど。

 ディランの姿が見えなくなって、部屋に戻ろうと一歩進んだ瞬間、突然後ろに立っているビトが小さく吹き出した。



「……フッ。……ククッ……」



 うつむいているのでどんな顔をしているのか見えないけど、かすかに震えているのでおそらく笑っているのだろう。




 何? 今度はビトがおかしくなった?




 いったい今のどこに笑う要素があったというのか。

 ビトの顔を覗き込むように近づいて、ゆっくりと問いかける。



「ビト? どうしたの?」


「いえ……。まさか、あのディラン様が……って」


「? ディラン様がどうかしたの?」



 私の問いかけに、ビトはジッと私を見つめたあとにニヤッと意味深な笑みを浮かべた。



「いえ。別に」


「?」




 何……? ディランがなんなの?

 まさか、って何が??




 もっと詳しく問い詰めたいところだけど、なんとなくビトはこれ以上答えてくれない気がする。

 なぜかニヤニヤと口角を上げたビトは、ディランの歩いていった方向を目で追っていた。




 ビトってほんと謎すぎる……。

 さすがこのクソゲーの隠しキャラ。何を考えてるのかまったくわかんない!




「じゃあ……私は部屋に戻るわね。今日はつき合ってくれてありがとう」


「はい。俺はエリオット様のところに行ってから騎士寮に戻ります」


「!」




 エリオットのところって、私についての報告!?




「あ、あの、ビト。ルカ様のことは、エリオット様には……」


「言いませんよ」


「……ありがとう」



 

 よかった……!




 ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、ビトはまた口角を上げてニヤッと笑った。



「ただ、もしディラン様からの報告を受けて、男性と会っていたことをエリオット様が知っていたら……そのときは正直に話しますが」


「!!」




 そ、そっか!

 ディランにはバレてるんだった!




 ディランとエリオットは双子だけど、お互いの近況を報告し合うような仲良しの関係ではないはずだ。

 でも、絶対にエリオットに話していないとも言いきれない。




 もしエリオットが話を聞いてたとしても、ディランは相手がルーカスだって知らないし、ビトも『ルカ』という名前だと思ってる。

 ルーカスに会ってるっていうことはバレないからギリ大丈夫……かな?




 あとは私が男性と会っていたことに対してどう思われるか──だけど、エリオットは自分に関係ないことには無関心な男だからきっと大丈夫だろう。

 まあ、先ほどのディランのように、意味不明の怒りを発生させる可能性もゼロではないけど。




 次はたしかエリオットのイベントだし、何事もありませんように……!

 

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