第4話 次男ディラン
三男レオンを選ぶつもりが、間違って次男ディランにつながる選択肢を押してしまった。
サーーッと全身から血の気が引いていく。
「どうしよう!! まさかディランを選んじゃうなんて!」
レオンを選ぶつもりでシミュレーションしていたというのに、最初から予定外の展開になってしまった。
ダラダラと冷や汗が出てくるけれど、いつまでも自分を責めている場合ではない。
ゲーム通りなら、もうすぐこの部屋にディランがやってくるのだ。
「たしか……ディランとの最初のイベントは、『令嬢ごっこ』だったよね? 最後のほうはずっとレオンを選んでたからうろ覚えだけど、①のドレスなら1%しか減らなかったはず……」
すごく気分の悪くなるイベントだからやりたくなかったけど、そんなこと言ってられない!
まだ長男のエリオットじゃなくて良かったと思うしかないわ!
「今は、とりあえず少しでも好感度が減らない選択肢を選ぶしかない!」
グッと拳を握って決意したとき、部屋の扉が開いた。
ノックもなしに勝手に入ってきたのは、もちろんディランだ。
ワトフォード公爵家の次男、ディラン・ワトフォード。22歳。
短い金髪をツンツンに立たせているような髪型に、フェリシーと同じ赤い瞳。
モデルのようなスタイルの良さと顔面偏差値の高さ。でも、眉と目を挑発するように吊り上げているため非常に性格が悪そうに見える。
ゲームの中では、『単純短気の乱暴者だけど実は情に厚いキャラ』として紹介されているけれど、情に厚いところなんて一度も見たことがない。
……まぁ、妹を1番真剣に捜しているから、そこが情に厚いってことなのかも?
ディランはムスッと不機嫌そうな顔でズカズカと部屋を横切り、私の目の前に立った。
今までも何度か会ったことがあるのに、前世の記憶を思い出した後だとなんだか不思議な感覚だ。
改めて見ても、本当にゲームの顔そのまま!
こんなに綺麗な顔の人が実在してるなんて、信じられない……!
そんな見目麗しい青年は、見下すように私をジロリと睨みつけた。
「お前。祈りにも行かずに部屋でだらけてるってのは本当らしいな」
「…………」
生意気そうな口調で話す内容は、やはりゲームと同じセリフだ。
この後にどんな言葉が続くかわかっている分、私はディランから目をそらさずにジッとその場に立ち続ける。
「妹の代わりに、しっかりとした令嬢になるって言ってなかったか?」
「…………」
「それがもうサボりとは、ご立派なことだ。もしかして、もう完璧な令嬢にでもなった気でいるのか?」
「…………」
「じゃあ、俺が確かめてやるよ。『令嬢ごっこ』でな」
「!」
きたっ!!
ディランはニヤッと意地悪そうに口角を上げると、ドレスの並ぶドレスルームを指した。
次にくる言葉もわかっている。
「テーマは『お茶会』だ。ワトフォード公爵家の令嬢として、恥ずかしくない格好を自分で考えろ。ドレスに着替えるときだけは、メイドを中に入れてやる」
ピロン
ディランのゲーム説明が終わった瞬間、目の前にパッと選択肢が現れた。
『【イベント発生】令嬢ごっこ
どのドレスに着替えますか?
①黒いドレス
②赤いドレス
③ピンク色のドレス』
やっぱり選択肢も全部同じだ……!
突然私が何もない空中を見上げたからか、ディランが眉を顰めて不審そうに問いかけてきた。
「なんだ? 何を見てる?」
「あ……いえ。なんでもないです」
「フン。不安すぎておかしくなったか? 制限時間は5分だ。5分経ったらメイドを部屋に入れる」
「わかりました」
ディランは最後に私をジロッと睨むなり、スタスタと部屋から出ていった。
はぁ〜〜っ。
アイツがいるだけで空気が重すぎるっ!
何がおかしくなったか? よ!! おかしいのは自分でしょ!!
5分しかないし、さっさと①を選んで…………あれ?
①に手を伸ばそうとして、ハッとする。
「おかしくなったか? なんてセリフはなかったはず……」
それもそうだ。
ゲームの中のヒロインは、私みたいに空中を見上げたりしていなかったのだから。
セリフも行動もゲームとまったく同じになるかと思ったけど……そんなことないの?
そういえば、私の口や手足が勝手に動くこともないし、自由だわ。
「もしかして……ドレスも自分で選べる……?」
宙に浮かんだ選択肢を無視して、部屋の中にあるドレスルームに向かう。
警告音みたいなものが鳴るかと覚悟していたけど、特に選択肢を迫るようなことは何も起きない。
この選択肢以外からドレスを選べるなら、もしかして好感度を下げずに上げることができるかも……!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます