第13話 答えを間違えたら即ゲームオーバー


「……フェリシーです。お呼びでしょうか?」



 オーラに圧倒され、少し震えた声でそう尋ねる。

 エリオットはそんな私の反応を見て、ニヤッと口角を上げた。



「急に呼び出してすまなかったな。君に確認したいことがあるんだ」




 ゲームのセリフそのまま……! やっぱり!




 3兄弟の中で唯一、私に笑顔を見せ丁寧な口調で話しかけてくるエリオット。

 妹のように接しろと使用人に伝え、お小遣いまでくれる。

 

 でも、それは優しさからではない。

 ただ機械的にそうしているだけで、何か彼の機嫌を損ねることがあれば一瞬にして態度が豹変する。




 前世を思い出す前は、エリオットが1番親切だと思ってたけどとんでもない!

 この人が1番怖いわ!




 そんな気持ちを顔には出さないよう気をつけ、冷静ぶって質問を返す。




「……なんでしょうか?」


「今日、大事にしていた花瓶が割れたんだ。希少価値が高い花瓶で、誰が割ったのか犯人を探している」


「そうですか」




 大事にしていた花瓶? 嘘ばっかり!

 そんなもの、本当は興味ないくせに!

 興味あるのは、濡れ衣を着せられた私の反応だけでしょ!? この悪魔長男め!



 

 もちろんそんなことは口に出せない。

 万が一言おうものなら、その場で好感度がゼロになって私は殺されるだろう。




 エリオットは他の兄弟と違って下がる%の幅も大きいんだよね!

 一瞬でゼロにならないように気をつけなくちゃ!




 平然を装っている私から視線を外したエリオットは、隣に立つセリーヌに声をかけた。



「セリーヌ」


「はい」


「君は花瓶を割った犯人を見たんだよね? それは誰だ?」


「フェリシー様です」


「それは本当か?」


「はい。フェリシー様は普段から我々メイドに嫌がらせをしておりまして、この花瓶も私が割ったと思わせるためにわざと……」



 まるで悲劇のヒロインのように、セリーヌは弱々しく説明している。

 私を見ないように振る舞っているのも、怯えている様子を周りに伝えるためだろう。




 ……っ!

 このメイド、本人を目の前にしてよくこんな堂々と嘘つけるわね!




 ゲーム通りの会話だけど、実際目にすると印象がだいぶ違う。

 こんな嘘をついても大丈夫な相手として舐められているのが、よーーく伝わってくる。


 さらに恐ろしいのが、壁際に立っているメイドたちがみんなうんうん頷いていることだ。

 全員で私を嵌めようとしている。




 いくらエリオットに妹と同じように接しろと命令されていても、心の中では誰も私のことをワトフォード家の1員としては見てくれていないのね。

 突然現れた孤児の平民に尽くせって言われたんだから、無理もないけど……。




 わかっていたことだけど、やっぱりどこか寂しい。

 3兄弟だけでなく、使用人からも必要とされていない自分──。




 ううん! 今はそんなこと考えてる場合じゃない!

 この答えに失敗したら、即ゲームオーバーの可能性だってあるんだから!

 まずはこのゲームに集中しなきゃ!




 セリーヌから私の名前を聞き出したエリオットは、作られた笑顔をこちらに向けた。

 目だけは、どこか挑戦的な目だ。

 


「セリーヌが言うには、君は使用人を虐め、わざと花瓶を割ったそうだが……それは本当か?」



 エリオットに質問された瞬間、目の前にアンティークフレームに囲われた文字が現れた。

 

 ピロン


『【イベント発生】濡れ衣

 どう答えますか?


 ①「違います」と否定する

 ②「そうです」と認める

 ③この場から逃げる』




 出た! 選択肢!

 これで本当にエリオットのイベントが始まったのね!




 何度もやったことのあるこのイベント。

 もちろんこれもディランの令嬢ごっこと同じで、どれを選んでも好感度が下がるようになっているクソ仕様だ。




 まずは『①「違います」と否定する』……。

 本当なら、これが正解のはずなのよね。だって私はやってないんだから!




 でも、これを選ぶと「やってない証拠はあるのか?」と聞かれてしまう。

 そんなものがあるわけなく、私は嘘つきとして罰せられて好感度が3%落ちる。




 実は、エリオットは私が犯人じゃないってわかってるのよね。

 その上で、私がこの状況をどう回避するかを試してる……。




 ただ否定しただけでは、エリオットは満足しない。

 ぐうの音も出ないほどの完璧な証拠を提示しての否定でないと、意味がないのだ。




 監視カメラなんてないし、完璧な証拠なんて用意できるわけない!

 ①は却下!




 次の『②「そうです」と認める』を選んだ場合は、反論することなくあっさり諦めたとみなされて好感度が5%下がる。


 いわゆる『つまんねー女』と認定されてしまうのだ。

 エリオットは私の反応を見て楽しみたいと思っているため、そんな対抗心のない答えは地雷なのだ。




 だからこそ、『③この場から逃げる』なんて選んだら最悪!

 元々8%しかないエリオットの好感度が全部下がって、一気にゼロになっちゃう!

 その場で即ゲームオーバー!!




 ②と③は絶対に却下。

 安全策をとるのであれば、1番好感度の減らない①を選ぶべきだ。でも、それでも一気にエリオットの好感度が5%にまで落ちてしまう。

 できることなら、1%も下げることなくこのイベントを終えたい。




 否定も肯定もダメ……。

 無回答もダメ……。

 それ以外の答えを考えなくちゃ!




 チラリとセリーヌの顔を見る。

 ゲーム画面で見た顔そのままで、眉と目を吊り上げて私を睨んでいる。




 まるで「認めろ」と言ってるような顔ね。

 悪いけど、肯定は絶対にしないわ!




 返事が遅いことに苛立ったのか、エリオットが先ほどよりも低い声で再度問いかけてくる。



「どうした? 答えないのか?」


「…………っ」




 ダメだっ! このまま黙ってても好感度が下がっちゃう!

 こうなったら……!

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