第12話 長男エリオット
まさか、こんなに早い段階でルーカスに会っちゃうなんて……!
向こうは私がエリーゼの身代わりなんて知らないだろうし、別に大丈夫だよね?
ワトフォード公爵家の関係者だと気づかれないように、地味な服装をしている私。
ピンク髪で赤い瞳という特徴は隠せていないけど、まさか自分の婚約者かもしれないなんて考えは浮かばないだろう。
「ふぅ……」
ひとまずプチパニックになっていた自分をなんとか落ち着かせる。
このゲームではちょっとしたことで好感度が下がって死に向かってしまうのだから、予定外のキャラとの絡みなど勘弁願いたい。
ルーカスの好感度はないから彼自体は関係ないけど、会ったことがエリオットにバレて問題視されたらたまらないわ!
すでにルーカスは見えなくなっているけど、スタスタと足早にその場を去る。
それにしても、ルーカスってすごくいい人なのね。
3兄弟と同じように性格に難ありかと思ってたけど、そんなことはなさそう。
ゲームをクリアしたら、婚約者と結婚して幸せになれる──その言葉に嘘はなさそうだ。
「とはいえ、クリアするのは100%無理だし。エリーゼを見つけたら私には関係ない人になるんだし、考えるのはやめよう」
今は、とりあえずエリーゼを見つけること!!
それだけを考えなきゃ! 私には時間がないんだから!
グッと気合いを入れて、私は急いで家に向かった。
***
「フェリシー様。エリオット様がお呼びです。すぐにダイニングへ」
「……え?」
家に帰るなり、私を待っていたマゼランにそう告げられた。
エリオットが私を呼び出すことにも驚きだけど、それ以上に私はマゼランのセリフに驚愕していた。
このセリフは……。
頭の中に、前世使っていたスマホの画面が浮かぶ。
水色髪のメイドにこのセリフを言われるのは、『エリオット攻略イベント』開始の合図だ。
嘘……っ! こんなに急に!?
ゲームでは、だいたいそろそろ次のイベントがくると感覚でわかる。
でも、実際にフェリシーとして普通に生活を送っていたために、そのタイミングがまったくわからなかった。
そっか。たしかにそんな時期かも!
でもまだ心の準備が……!
「早くしてください」
「! わ、わかったわ」
準備ができていないとか、そんなことを言っている場合ではない。
もうイベントは始まっているのだ。
少しでもエリオットの機嫌を損ねることのないよう、私は慌ててダイニングに向かった。
エリオットとの最初のイベント……。
それは、嫌なメイドによる『濡れ衣事件』!
もちろん、私はこのイベントの内容もそれぞれの答えに対する結果も知っている。
あの嫌なメイドの顔は忘れないわ。
アイツのせいで、毎回毎回エリオットの好感度をグンと下げられちゃうんだから!
私が『アイツ』呼ばわりするメイド──セリーヌは、紺色の髪の若いメイドだ。
このメイドが掃除中に誤って高価な花瓶を割ってしまったことが、このイベントの発端である。
なんとこのメイド、自分の責任にされるのを恐れて「フェリシー様が割った」と私に濡れ衣を着せたのだ。
実際にその場にいたメイドたちも、みんなセリーヌを庇って私のせいにするんだよね!
あのイベントはほんっとに胸糞すぎて、思い出すだけでもイライラしてきちゃ……
「フェリシー様?」
「あっ、は、はいっ!」
拳を握って歯をギリギリしている姿を、マゼランに見られてしまった。
どうやら考え事をしているうちにダイニングに到着していたらしい。
「着きましたよ」
「そ、そうね。案内ありがとう」
この家に来て1ヵ月経つけど、3兄弟と一緒に食事をしたことなんてない。
いつも自室で食事をしている私は、ダイニングに来るのは初めてだ。
いけない!
攻撃的な顔をしているところを見られるのはまずいわ!
冷静に! 落ち着いていくわよ!
ガチャ……
マゼランがドアを開けてくれたので、背筋を伸ばしてからゆっくりと中に入った。
エリオットがいるからか、マゼランも普段とは違い丁寧な対応をしてくれている。
エリオットに会うのは、この家に来た日以来だから約1ヵ月ぶりね……。
「エリオット様。フェリシー様をお連れいたしました」
「ああ、どうも」
ダイニングの真ん中にある白く長いテーブルの奥に、エリオットが足を組んで座っている。
その隣には、青い顔をしたセリーヌが立っていて、壁際には執事やメイドなどたくさんの使用人が姿勢正しく並んでいた。
う、わ……っ!! さすがエリオット!
ゲーム画面では何度も見たことあったけど、やっぱり本物はすごい!!
顔だけはつい拝みたくなっちゃうほどの顔面国宝ね!!!
サラサラどストレートな金髪に赤い瞳。
高い鼻筋やくっきりとした幅広の二重は、自然にそんなに綺麗になります? と聞きたくなるほどに整っている。
でも、美しく微笑んでいるエリオットの瞳には、光がさしていない。
まるで顔だけ精巧に作られた人形のようだ。
彼からは生きた者の熱量とか感情といったものが何も感じない。
同じイケメンだけど、やっぱり他の2人よりもオーラがすごい!
ディランとは双子のはずなのに、雰囲気が全然違う……!
ディランの暴力的で攻撃性の高いオーラとは違い、エリオットはゾッと背筋が寒くなるような恐ろしいオーラを感じる。
ただ向かい合っているだけで、腰が抜けてしまいそうだ。
これが最難関の攻略対象者、長男エリオット!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます