第21話 「絵は書けないくせに」?? あの、付き人が失礼なんだが
油断しているときに始まったディランのイベント。
ゲームプレイ中はイベントや好感度のことばかり考えていたから、特に急だと感じたことはなかった。
でも普通に生活している状態だと、イベントのタイミングが読めなくて焦ってしまう。
絵本を書くことに夢中すぎて、すっかり忘れてた!
その場で即回答しなきゃいけないものじゃなくてよかった!
できるなら、事前にすべてのゲームの良い攻略法を考えておきたい。
でも、最初の選択肢が違うだけでイベント内容も変わるため、全部のイベントを覚えていないのだ。
イベント名と選択肢を見たら思い出せるんだけど……あとはよっぽど印象に残ったやつしか覚えてないんだよね。
まあ、思い出せるだけまだマシか。
『【イベント発生】料理チャレンジ
どの料理を作りますか?
①スープ
②肉料理
③クッキー』
3兄弟と仲良くなりたくて奮闘していたヒロインへのチャンスとして、ディランの考えたこの料理イベント。
美味しいご飯を食べさせて、3兄弟に気に入ってもらえたら好感度が上がる──と思われるこのイベントは、どれを選んでも好感度の下がるクソイベントその2である。
①のスープを選ぶと、「貧乏人らしい選択肢だな」と笑われて口にすらしてもらえない……。
②の肉料理を選ぶと、「焼き具合がわかってない。さすが貧乏人だ」と呆れられて使用人に配られる……。
③のクッキーを選ぶと、「見た目がダサくて貧乏くさい」と言われて動物のエサにされる……。
って、どれを作っても食べてもらえないやつだよね、これ!!!
さらに、このイベントはどの選択肢を選んでも必ず好感度が2%下がるのだ。
現在のディランの好感度は11%なので、2%下がったら9%になってしまう。
10%以下になるのは困るっ!
なんとかいい方法を考えないと!
「うーーん……」
ヒントは、ディランの回答の中にあるはずだ。
彼がどんな理由でその料理を拒んだのかを考察してみる。
どのセリフにも、『貧乏』っていうワードがあるわ。
貧乏くさいのがダメ……だから、貴族にも受け入れてもらえるような完璧な高級料理を作れってこと?
もしそうだとしたらアウトだ。
田舎の孤児院に暮らしていたときも前世でも料理はそれなりにやってきたけど、高級料理なんて作ったことはない。
ゲームの中のフェリシーだって料理は下手じゃなかったはず。
それでもダメだったということは、今の私が何を作ったところで絶対ダメに決まってる!
「ううーーん……」
でも、ひと口も食べないっておかしくない?
全部料理を見ただけでダメ出しされてる……。
味が大切なら、ひと口くらいは食べてみるはずだ。
それをしないということは、大事なのは味ではなく見た目だけだということになる。
「料理の見た目だけ……?」
あの乱暴者のディランが、料理の見た目を気にするようには思えない。
他になんかない……?
ディランの言葉に、何かヒントはなかった?
「何か……何か……」
そのとき、ゲーム開始前に言ったディランの言葉が思い浮かんだ。
『そんなに俺たち兄弟に良く思われたいなら、裏工作しないで堂々とアピールしてくればいいだろ?』
ハッと何か閃いたような感覚が走る。
「堂々とアピール……。3兄弟に良く思われるための……アピール……」
そっか! ディランが求めてるのは、高級料理っぽい見た目じゃなくて、3兄弟と仲良くしたいっていう私なりのアピール!
ただ料理を作るだけじゃダメなんだ!
真っ暗な道に、一筋の希望の光が差し込んだ気がした。
けれど、その光は一瞬にして消えてしまう。
……待って。アピールって何?
料理でどうやって仲良くしたいことをアピールしろっていうの??
難しい。難しすぎる。
ちょっと料理ができる程度の一般人に、そんな器用なことができるとは思えない。
贈り物っぽく可愛くラッピングしてみるとか?
……肝心の料理が見えないし、開けてもらえなかったらアウトだわ。
ハート型のクッキーを量産してみるとか?
……兄弟を恋愛的な目で見てる女だって勘違いされたら大変だわ。
クッキーに『なかよくしたい』って文字を書くとか?
……直球すぎてつまらないって思われそうだわ。
「ああ〜〜っ! もう! どうしよう!」
「大丈夫ですか?」
「ひぃっ!?」
私の叫びに、すぐさまビトが反応した。
ビトの存在をすっかり忘れていたので、驚きすぎてつい変な悲鳴を上げてしまった。
そうだ! ビトがいたんだった!
さっきまでブツブツ独り言を言ってしまっていたことを思い出し、今さらながら後悔する。
きっと変な女だと思われただろうし、エリオットに報告されてしまうだろう。
「あーー……だ、大丈夫よ」
「ですが、ずっと唸っていましたよ」
うっ! 直球で聞いてくるなぁ。
「何を作ろうか悩んでいただけよ」
「フェリシー様……絵は描けないくせに、料理はできるんですね」
「絵は描けないくせに?」
おい。
この付き人、失礼なんですけど!?
無愛想なビトにムッとした瞬間、あるものが頭に浮かんだ。
前世で1度だけ食べたことのある、可愛らしいアイシングクッキーだ。
……そうだ!
字を書くんじゃなくて、絵を描けばいいんだ!
アイシングクッキーは作り方もやり方もわからない。
けど、溶かしたチョコを使ってクッキーに絵を描くことならできる。
「ナイス!! ビト!!」
「はい?」
よくわかっていないビトに無理やりハイタッチさせるなり、私は選択肢『③クッキー』に触れた。
軽快な音とともに、③の字が白く光る。
「ビトのおかげで、作りたいものが閃いたわ」
「何を作るんですか?」
「クッキーを作って、それに絵を描くの!」
「…………」
私の答えを聞いて、ビトの顔が微妙に引き攣ったように見えたのは……気のせいだと思いたい。
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