闇バイト(7)
東京に戻ってきたわたしを出迎えたのは、富田とコワモテの男たちだった。
新宿中央署の玄関で三人の男が立ち話をしており、そのうちのひとりが富永だったのだ。もちろん、コワモテの男たちも顔見知りである。彼らは組織犯罪対策課の捜査員たちだった。
「お疲れ様です」
「おお、いま帰り?」
「はい。栃木から帰ってきました」
富永の問いかけにわたしは少し疲れた顔をしながら答える。
「栃木?」
コワモテのひとりが、どうして栃木なんだと言わんばかりの口調で口を挟んできた。
優秀な捜査員であることは知っているのだが、やはり顔を見ただけだとカタギには見えない顔立ちをしている。彼らの異動にはビジュアル的な審査があるのではないだろうか。そう思えるくらいに、組対にはこういったコワモテたちが集まっている。
「女子刑務所ですよ」
「ああ」
納得したかのようにコワモテの男はふたりで頷く。
「富永さんはどこかへお出かけですか?」
「いや、俺も戻ってきたところだ。組対のふたりにちょっと写真を見てもらっていたんだ」
「写真?」
「そう。この前の運転手。やつが割れた」
「え、そうなんですか」
「島村拓哉、四十二歳。指定暴力団組織島津会のフロント企業で専務という肩書を持っている男だそうだ」
富永はそう言いながら、一枚の写真をわたしに見せてきた。その写真の男は間違いなく、あの時の運転手だった。それは防犯カメラの映像と完全に一致している。
「すでに指名手配を掛けてある」
「わかりました」
「それで、そっちの収穫は?」
「収穫というほどではありませんが、佐藤千佳の協力を得られることになりました」
「佐藤?」
「あ、えびさわたいこです」
「ああ。そうだったな」
捜査員たちにとって、佐藤千佳という本名よりもえびさわたいこの名前の方が馴染みのあるものとなっていた。
「それにしても、えびさわが協力するなんて意外だな」
「そこはわたしのテクニックですよ」
にっこりとわたしは富永に対して笑って見せる。
「なんだよ、それ」
「秘密です」
わたしたちは歩きながら話し、刑事課の部屋へと向かった。
その途中の廊下で、警視庁捜査一課の二宮が向こうから歩いて来る姿を見つけた。いつものように黒のロングコートを着た二宮は、片手にビジネスバッグを下げている。
「こちらに居ましたか」
わたしたちの姿に気づいた二宮が声を掛けてくる。二宮は何か用事があって新宿中央署を訪れていたようだった。
「どうかしましたか、二宮さん」
「栃木に行ってきたそうですね」
「さすがは捜査一課ですね。耳が早い」
富永が軽口を叩く。
しかし、それを二宮は真面目にとらえて受け答えをする。
「いや、そういうわけじゃないですよ。先ほど、織田さんから聞いたんです。ちょうど、私も高橋さんと富永さんに用がありまして」
「なんですか?」
「羽田の件ですが、近々捜査本部が設置されることになります。そこでお二人には、その捜査本部に参加してもらおうということになりまして。すでに織田さんからの了承は得られています」
「捜査本部ですか」
「ええ、今回の事件はただの強盗事件というわけではなくなってきました。本件に絡んで殺人も起きており、捜査一課も動くことになったというわけです」
二宮によれば、捜査本部は新宿中央署に設置され、警視庁捜査一課と警視庁組織犯罪対策部、そして新宿中央署と東京空港署が加わることとなっているとのことだった。
捜査本部が設置されれば、様々な点で動きやすくなることは確かだ。関連する事件の資料なども捜査一課の名の下で集めやすくなるし、他の所轄署も協力を惜しまなくなる。地道に捜査を続けてきていた我々にとっては大きな味方を得たようなものだった。
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