第52話 黄玉騎士
二人は歩きだしながら会話を続ける。
「対峙した時だって本気だったけど、殺し合いというよりは『稽古』に近い感覚だったんだ。だから浅蔵に危害を加えるつもりはない」
「その割に鋭い拳だったがな」
「本気じゃなければ伝わらない思いもあるさ」
昂我の軽い言い訳に浅蔵は再び押し黙り、
「そういえばお前、こんな暗闇で道は見えるのか?」
と言った。
浅蔵は暗闇を解析しているダイヤモンド・サーチャーの目と同期しているので、暗闇の中にいても暗視スコープを覗いているように、周囲のものが手に取るように分かる。
「夜目は利く方なんでな」
「……お前は一体何者なんだ。ダイヤモンド・サーチャー以外の騎士でもこんな光もない地下の暗闇を歩くことは出来ないぞ。
そういえば黒騎士犯行現場でトパーズの結晶を見つけた時も異様な視力をしていたな……」
「子供の頃に叩き込まれりゃ慣れるって――お、こっちを右だな」
初めて歩く地下だが昂我は感覚を頼りに監獄の奥へ奥へと進んでいく。
そして辿り着いた先は――。
「あり、行き止まり?」
しかし感じる共鳴はこの先だ。
「浅蔵、この監獄は回らなければいけないとこもあるのか?」
「俺も詳しくは知らないが、見取り図を見たときは、碁盤の目のような感じだったな」
「じゃ逆か……」
「逆? 戻るのか」
「いや、ここに壁があるのは不自然ってこと――さっ!」
思い切り昂我が拳を叩きつけると、ふんわりとした感触が拳に触れ、次の瞬間に光の塵となって壁が消滅した。
「な、なんだと」
「俺の考え通りなら、この先にいるのはもっと驚くべき人物だぜ」
壁の先を二人で数分ほど進むと、徐々に光が差しているのが分かった。どうやら一カ所の牢屋だけ光を取り込んでいるらしい。
光が差し込む牢屋の前に着いたとき、浅蔵は愕然とした。
そこには以前剣を交えた機械人形達が、黒騎士に剣を刺したまま壁に固定している。黒騎士の騎士鎧は大きなダメージを負っており、右肩を中心として無残に砕け、中の男性の年老いて痩せ細った肉体が露わとなっている。
黒騎士の兜も全てが破壊されており、年の頃は八十歳を過ぎているように見える。
男は虚ろな目で昂我と浅蔵を見上げた。
「……君なら来てくれると思っていた」
しわがれた声で老人は語る。四肢の女神たちは行動停止のプログラムが走っているのか、老人を押さえるだけで、何の反応もない。
「ナイツオブアウェイクの黄玉騎士、だな」
昂我は静かな声で話す。
「ああ、そうだ。黄玉騎士、比良坂誠司」
「ひらさか……せいじ」
浅蔵はその名を噛みしめるように口ずさむ。
「な、これで俺が黄玉騎士じゃないって証明できただろ?」
左目を隠したまま、右目だけで笑みを作り、ニッと昂我は笑う。
「い、いや待て。そう簡単に信じられるはずがないだろう。
ほ、本当なのか……?」
疑いながらも黄玉騎士――比良坂の右胸を見ると色彩を失いかけている甲冑を模したような痣、
「騎士紋章……で、では何故、お前からも共鳴を感じるんだ!
お前も何らかの騎士ということなのか!」
「そいつは多分、こいつのせいだ。比良坂翁殿なら説明できるだろう?」
項垂れたままの比良坂は壁に貼り付けにされたまま二人を見据え、重たい口を開いた。
「どこから話すか……これは正義に対する反乱だった……」
どこか遠い目をしながら比良坂は続ける。
「ナイツオブアウェイクはこの三百年間、人類の脅威と相対する事は無かった。それは知っているだろう?
だからこそなのかもしれない、ナイツオブアウェイクが徐々に内部から腐っていっていたのが分かったのは」
「お爺さん、腐っていっていたとは……?」
「こう見えても私の歳は三七八歳……、まあ、お爺さんには違いないが。今は何とか黄玉の騎士鎧の力でこの年齢を保てているがね、鎧の効果がそろそろ消えてしまえば瞬時にして老衰で灰になる」
「さ、さんびゃく――」
浅蔵は驚愕した。三百歳を超えているということは、騎士の戦いも経験しているし、年号も江戸時代くらいになる。
「黄玉は『守る』事に特化した騎士鎧でな。
周囲を守る以外にも私の生命をも守ってくれた。
その間、様々な騎士を見てきた。皆、騎士紋章を受け取ったときは責任感や正義感に溢れていたものだ。
だが脅威も訪れず、時間だけが経過していくようになると、騎士たちは徐々に騎士鎧の力に溺れ始めていくようになった」
昂我は師匠から耳にタコができるくらい言われてきたので、よく知っている。
金や腕力、そういった分かりやすい力があると、人はいずれ内部から腐っていく。だから常に自分に枷をはめ、進むべき目標を作り、人の道を踏み外さないようにと。
女をはべらせ、酒を飲みながらだったので説得力がない時もあったが。
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