第3話 脅威 - 戸惑

 浅蔵はしびれを切らして、行動に移る。手の甲の騎士紋章が淡い光から強い閃光を放ち、同時に浅蔵を包むように白鎧ダイヤモンド・サーチャーが展開された。


 騎士鎧と呼称されているが人間が直接着る普通の鎧ではない。


 騎士紋章の原石と騎士となる人間の精神が融合し、その精神的な形が具現化されたのが騎士鎧である。


 ダイヤモンド・サーチャーの実体は半透明に透けておりは大きさは約二メートルくらい。全身をフルアーマープレートに覆われ、兜からは白い光が漏れている。


 甲冑には鳥の羽の様なデザインが随所に施されており、高貴さを感じる。武装は左手に全身を覆うほどの盾、右手には光り輝く刀身を持つ片手剣を装備しており、誰もがイメージする騎士そのものだ。


 騎士鎧は基本的に半透明で展開され、今も浅蔵の周囲に蜃気楼のように薄っすらと出現している。


 浅蔵が地面に剣を突き立てる素振りをすると、同じようにダイヤモンド・サーチャーも地面に剣を突き刺した。


「《全知の視界》の感度は上昇したが、やはりあの男は何かで守られている」


 地面に突き立てた剣の柄に両手を置き、浅蔵は「危険とみるべきなのか?」と独り言を漏らす。あの男に攻撃を仕掛ければ全て分かるかもしれないが、初の実戦でどれほど慎重になってもおかしい事はない。


 浅蔵の迷いを横で感じながらも、凛那はこの男を斬るにのは残酷すぎると感じていた。


 騎士紋章が反応しただけで現場に急行したのだが、この男は何も悪事を働いてはいない。騎士紋章が反応したので『今後敵になる』かもしれないが、三百年間も騎士紋章は反応しなかったのだ。誤反応の可能性も否定できないのではないだろうか。


 このまま状況が変わらなければ、この場は立ち去っても良いかもしれない。その後の事は様子を見つつ、脅威が消えるまで見守るのもありかもしれない。


 考えを浅蔵に伝えようとしたとき、男は浅蔵のダイヤモンド・サーチャーを見て、大きく眼を見開いた。空想を見ていたが、明らかに現実に引き戻された意思のある瞳である。


「お、おおおお……こ、こんごうおおおお――き、きさまあああ」


 地の底から響く様な男の声に驚き、凛那はビクッと身を竦める。


 男はダイヤモンド・サーチャーに手を伸ばしながらおぼつかない足取りで進む。彼の瞳はドス黒く、まるで底のない奈落だ。


 浅蔵まであと三メートル程と迫ったとき、ダイヤモンド・サーチャーが男に剣を付き付けた。


「それ以上近寄らないでいただきたい」


 声に不安が含まれているのを凛那は聞き逃さなかった。

 喉元に剣を付けつけられた男は浅蔵の言葉に素直に従い、その場で足を止める。


「……ゆるさ、ない……ゆるさな、い、騎士――騎士をおおお――」


 喋るのが苦しいのか、途切れ途切れに彼は言葉を繋ぐ。


「騎士を――だと? 俺達を知ってるのか」


 訝しげに浅蔵は尋ね返す。


 ナイツオブアウェイクは人類が文明を築き始めた頃から存在し、騎士紋章を人から人へと受け継いできたが活動は常に歴史の裏舞台だ。


 表舞台に立つと行動に支障や制約が出てくるので、その存在を知るものは極少数である。


「も、勿論――ぐ、は――、その、赤く、まばゆ、い光は、紅玉――」

「ひっ……」


 彼の憎悪に満ちた深い瞳に自分の存在を認識され、もう逃げる事が出来ないと直感する。


(――嫌な予感がする)


 この男の正体は分からないけど間違いなく好ましい者ではない。騎士紋章は先ほどからずっと凛那に伝えている。


《貫け》と。


「う、そ、そうかここは――くそ、時間の、かん、かく、が……お、おれは――。聞け。騎士紋章を、も、つ、若き、騎士た、ち」


 彼は己の身体を両手で掻きだす。ワイシャツはビリビリに破け、血が滲んでいる。

 衣服の隙間からは鉄のプレートの様な物が見えた事を凛那は見逃さなかった。


「ぐああああ、りせいが、い、いしが、く、くくく喰われる――」


 う、ああああと、叫び声を上げながら彼の身体は徐々に変化していく。先ほどまでの細い腕は重々しいガントレットに変化し、両足はすでに鉄のグリーブが装着されている。


 凛那の騎士紋章紅玉もそれに呼応するかのように赤く眩い力を放つ。

《早急に奴を貫け》と叫んでいるのが分かる。


「さああ、はやくあああ! 紅玉の騎士よおおお! 零が、いな、い、今、お前の槍でなければ、なければ、なければ、私を貫けないいいいいいいいいあああああああ!」


 断末魔の叫びが闇夜に響く。


 突然名前を呼ばれ「何で私が」と慌てて浅蔵を見つめるが、彼もこの状況に理解が追いつかないのか、男が漆黒の鎧に蝕まれていく姿を凝視したままである。


「はや、く、まだ、お、おさえ、きれ、ている――うち、に……!」

「わ、私……」


 いざ攻撃をおこなうとなると膝ががくがくと震えて、その場にへたり込みそうになる。しかしここで座り込んだら二度と立ち上がる事は出来ない。


 微かに残った意思がその場に立つ力を与えてくれた。


「凛那君、撃つんだ!」

 切迫した声で浅蔵が言い放つ。







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