第11話 代償-利己
「部屋はお好きなお部屋ご自由にお使いくださいませ、昂我様。
もし浅蔵様のお家で過ごしたいとご希望されでもしたら――お嬢様の命の恩人を危険に晒せませんから」
「危険?」
「僕の家では命の保証は出来ないって意味さ」
「ますます分からん。人間を餌にでもする番犬でも飼ってるのか?
それともなにか、カラクリ屋敷か何かか? 冗談きついぜ」
「厳しい騎士のお家柄って事さ。
僕の父親は
元団長がこれから人類の脅威へと変化する、片腕をレプリカ化した人間を見たらどうするかな」
「た、助けるだろ。団長をしてきた人間だ。
きっと優しさに満ち溢れ、俺のような哀れな人間を救ってくれる……と期待したい。ついでにキンキンに冷えたコーラでも貰いたいもんだね」
「その逆だ。コーラどころか空気すら口の中に入る事は二度とないだろうな。
貴様は《脅威》となる前に《抹消》される。
小を殺して大を生かす様な性格なんだ」
吐き捨てる様にいって浅蔵はカップケーキを頬張る。近くにいる夕陽に「美味しいですね」とにこやかに話しかけていた。
どうやら父親の話題は許嫁の話題よりも、触れて欲しくないのだろう。
浅蔵は何事もなかったように再びお茶を飲み、
「さて、僕はそろそろ失礼するよ。
僕たちはまだ敵も知らなければ、自分たちの事も知らない。
僕は騎士についてよく調べよう。
騎士鎧の扱い方さえ知れば、勝機が増えるかもしれない」
凛那は「玄関までお送りします」と立ちあがるが浅蔵はそれを制し、純白のコートを羽織る。
「凛那君はこいつの看病で寝てないだろう?
昨日の初戦闘もあって疲れているはずだ。今日はゆっくり体を休めてほしい。
黒騎士探しは今晩は無しだ」
そう言い残して浅蔵は部屋を出ていった。浅蔵の代りに廊下の外気が部屋に入り込む。
夕陽は浅蔵を追って出ていってしまった。きっと断られた主人の代わりに見送りに向かったのだろう。
さすがよくできたお手伝いさんである。
室内は昂我と凛那だけになってしまった。
凛那は何かを言いたげだったが結局口を開かず、クッキーに手を伸ばす。
カリッと砕かれた小気味よい音が響いた。
「……寝ずに看病してくれたんだ、ありがとな」
さっき浅蔵がいっていた言葉を思い返し、昂我はうつむいている凛那に声をかける。
「い、いえ、私の責任なので――私が、巻き込んでしまったので」
続く言葉は震える声に混ざり、音にならなかったが、口元が動いたのは見えた。
本当にごめんなさい、と。
四人で談笑していた時のような明るさはなく、凛那は失意の念に囚われている。
「凛那が責任を感じることじゃない。俺は本当に自然に体が動いたんだよ、珍しくね」
「でも……」
彼女が少し顔をあげ反論するが、昂我は話を続ける。
「普段は怖い見た目のお兄さんとか、お化け屋敷でお化けを怖がる俺がだよ?
女の子を守れたなんてすごい成長さ。
こう見えてもビックリするほど小心者なんだぜ。
だからこれでいいと思ってるんだ。自分の『意志』で動けたことが」
そう、自分の意志で自然と動けたことが。
それは本当に自分にとって凄い事なんだ。
考えていてもそれを行動に移すために一歩踏み出す事はとても力がいる事なのだ。
だが凛那は何も言わず、再び俯いてしまう。
明るくするために冗談を含めていったのが逆に失敗しただろうか。
テンションが空回りしてしまった昂我は、「という感じでございまして……」と情けなく意気消沈した。
外の雪は降り続いており、夕陽もまだ戻らない。
この静寂はもう少し続きそうだ。
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