第14話 通り魔-起床
『本日未明、一番町の住宅地にて通り魔事件が発生。
犯人は今だ捕まっておらず、逃走中。斬りつけられた男性の命に別条はなく、男性の話によれば犯人は黒い甲冑の様な物を身にまとっていたとの事』
続きまして、とアナウンサーは次のアライグマの赤ちゃんの話題を読み進める。
それと同時にナイトレイ家の黒電話がけたたましく鳴りだした。
俺たちはニュースに見入っていたが、電話の音に気が付いて夕陽さんがパタパタと小走りに廊下へ出ていく。
「凛那さん、浅蔵様からお電話です」
ニュースの内容についてだろう。昂我は口に出すまでもなく凛那を見ると彼女は頷き、凛那はすぐさま廊下へ向かった。
こんな時、携帯電話を持っていたら連絡も早く取れて楽だろうが、昂我と凛那は携帯電話を所持していなかった。浅蔵は持っているようだが、二人の生活には今のところ必要という程でもない。
今後の事を考えると所持していても良い気はするが――どうにも機械全般に対して昂我は苦手意識を持っていた。
「昂我君、これから私達も出ましょう。先輩が現場に集まろうとの事です」
「ニュースの現場か?」
「はい、場所は閑静な住宅地です。先輩はもう現場にいるそうですが、警察の実況見分は終わったそうです」
「分かった、すぐ行こう――凛那達は学校はどうするんだ?」
昂我は浅蔵や凛那の協力を得て、学校にはインフルエンザ、両親には良い感じに内容を伝えている。しかし育ちの良い二人は三学期の冬、まだ少し登校日数は残っている。
「私は午前授業だけでしたし、事件の事もあって、そのままお休みとなりました」
「さすがお嬢様学校、浅蔵は――心配するまでもないか」
浅蔵は学校でも優秀そうだから、休む場合もうまくやっているのだろう。
しかし学校が休みならば――ふと気になったことを凛那に投げかけた。
「何故、朝からセーラー服なんだ?」
朝、昂我がリビングに降りて来た時に凛那はもう優雅に椅子に座って、朝一番の紅茶を夕陽から頂いていた。思い返せばその時はもうセーラー服で髪もしっかりと整えられ、ご丁寧に蒼い雪の結晶の髪留めまで装着済みだった。
昂我は短期ながら居候されているにも拘らず、早くもパーカーとジャージ姿である。自宅でも普段からジャージ姿で生活しているので違和感はなかったが、この差は何なんだ。
明日から少し気をつけるべきだろうか。
「そ、それは――」
戸惑う凛那の姿を見て食器を片づけていた夕陽が、キッチンから顔を出して含み笑いする。
「いつもは髪の毛もはねっはねで、ボーっとした顔で寝巻のままいらっしゃいますが――どうしてでしょうね?」
「そうなんだ? 普段からしっかりしてるいイメージだけど、なんか意外で可愛いな」
頭の中ではパジャマにカーディガンを羽織り、髪の毛も外やら内やらに跳ね、目が開いてない凛那の姿が映し出される。
「か、かわい――!」
凛那が何か言葉を発した気がするが、自分で押しとどめた様で昂我の耳にはしっかりと届かない。
「そうなんですよ、この前なんて寝ぼけて紅茶に食パン浸してましたからね。ふふふ。その後に間を開けて、『美味しくない……?』っていう姿には、ほんっっっっっとに、もう!」
「ゆ、夕陽さん!」
「寝ぼけ方も凄いのか……これは凛那に対して考え方を少し改めねばならない」
「でも、これもそれも昂我様がいらっしゃるから。そんな姿を見せない為に、毎朝五時に起きて、しっかりと身だしなみを整える涙ぐましい努力を……」
エプロンドレスの袖を持ちあげて、えぐえぐとワザとらしい泣き真似をする。
「あ、そうだったんだ。悪いことしたなあ。俺の事なんて気にしなくても良いのに」
にへらと笑って、凛那をみると知らぬ間に耳は真っ赤で頬は林檎が熟したように赤い。
「顔赤いな。外は寒いし、暖かい格好で行こう」
現場では浅蔵が待っている筈だ。窓の外を見ると今日は久々の曇天。
けれど北風が体温を奪うだろう。考えただけでも身体の芯から冷えそうなので、昂我はすぐに着替えに向かった。
凛那もすぐに動くのかと思ったら、その場に立ち止まったままである。
「早起きしすぎて眠いのか? 寝不足は良くないぞっ。てへ」
てへの後に☆マークが飛び出るように可愛らしく言って見たが、何の反応もない。
しかし微かに凛那の口元は動いている。
「……絶対に早く起きる……今後も早く起きる……もう、寝ないから……!」
呪詛の様に口ずさんでいた。
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