第17話 通り魔-視界

「さすが騎士団長だ、引き続き頑張り給え」

「何故上から目線なんだ、赤槻昂我」


「俺はすぐ行動してしまうから、その慎重な手探り作業を学びたいって思っただけさ」

「確かにお前は苦手そうだな、慎重な行動ってところがな」


 昂我の左腕を見て浅蔵は苦笑する。

 それはそうだ。考える間もなく凛那の目の前に出て身代わりになってしまったのだから、思慮深いはずはない。


「そうだろ、そうだろ!」


 そんな中、浅蔵の肩をバシバシ叩いて笑っている昂我を、静かに見ていた凛那が申し訳なさそうに申し出た。


「あ、浅蔵先輩、私も何かお手伝いできることがあれば言ってくださいね。

 いつもまかせっきりですから」


「凛那君はその男の見張りをしっかり頼むよ。

 僕は戦いではあまり活躍できないが、こういった場面は分析型の見せ場だからね。

 それに新しい知識を得るのは嫌いじゃない」


「ああ、浅蔵ならきっとできる。俺はそう信じてるぜ……!」

「僕は不確定要素が含まれている、励ましは嫌いだな。

 確実な言葉を頼むよ、赤槻昂我君」


 冗談めかしに浅蔵は言い、改めてダイヤモンド・サーチャーを展開し、周囲を見回す。


 時刻はそろそろ十時頃だろう。

 太陽光が住宅地に降り注ぐ。冬にしては今日は暖かい。

 眩しい光に目を細めると折れた標識の先端が、キラキラと光を反射する。


(――反射?)


 反射にしては光が随分と乱反射し、周囲に薄っすらと虹が出ている。


「浅蔵、あの切断面に何かある。ダイヤモンド・サーチャーで確認できるか?」

「なんだと?」


 浅蔵は昂我が見ていた方角を見るが、なかなか見えないのかその場まで歩きだした。二十メートルほど離れているので、本来なら見えにくいのも仕方がない。


 浅蔵は標識のポールの前で、フッと小さく息を吐く。


 目の高さより少し上くらいにあるポールの切り口が僅かばかり鋭利な刃物で切られ、空中に飛び、浅蔵は片手でそれをキャッチした。


 左手の甲はすぐさま光に包まれる。


「……微粒だがこれは何かを削った粉……か?

 少なくとも標識の素材ではない。自宅で見比べてみよう。

 ここでは見ただけじゃ分らない」

 いつも持っているのかコートから密封パックを取り出し、斬ったばかりのポールを入れた。


「僕はこれを持ち帰って調べよう。凛那君は彼の見張りを続けてくれ。闇雲に探し回っても黒騎士は見つからないからね。単独行動はしないように」


 しかし、と浅蔵は昂我の肩を叩く。


「その長い前髪でよく見つけたな、視力が何処かの民族以上だ」


 左目にかかる前髪を見て、よくやったと浅蔵が肩を叩く。


「丁度陽の光が当たったからな。

 偶然さ。

 あとそれ、褒め言葉にしちゃ、あんま嬉しくないぜ。

 なんにせよ俺の腕もここまで来てるから、急いでもらえると助かるわ」


 左腕のレプリカは肘から二の腕の中間あたりまで浸食が進んできている。今日の夜には左腕は覆われるだろう。


 これがこれ以上進んだらどうなるのか恐怖はまだないが、死と直面した時、自分でも理性を保てるのか、昂我はよく分からなかった。


「任せておけ、口煩いのを斬ったら、化けて出られても煩そうだからな。

 そうならないためにもこの件は早めに終わらせてみよう」


 浅蔵はそう言って歩き出す。


「誰が口煩いんだよ、無口でダンディーなハードボイルドだって言ってんだろ?」


 その言葉に浅蔵は返答せず、背中を向けたまま片手を上げる程度だった。


 代わりに聞こえた声は、

「確かに先輩の言う通りです」

 凛那の一人納得した言葉だった。


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