第16話 通り魔-十二席

 そう考えた時、ふと疑問が浮かんだ。


「そういやナイツオブアウェイクのメンバーは各々バラバラに生活しているのに、騎士団長って存在意味あるのか?」


 脅威が無くなり皆がバラバラに生活していたとするならば、騎士を率いる必要はないだろう。


「ない。過去の名残だ」


 返事は端的で感情もない。


「それに、大分話してしまったが、これ以上は騎士でない君には話難いさ」

 と、苦笑いをする。


 それもそうか。騎士は本来秘密裏に人類の脅威を退けてきた。

 昂我は今はこうして騎士二人と行動しているが、ただ黒騎士との戦いに巻き込まれただけで、いつ暴走するかも分からないから傍に置かれている。

 これ以上騎士の話を聞くのも悪いだろう。


「悪いな。

 僕は君が口の軽い男と思っているが、それが理由じゃない。

 ナイツオブアウェイクの話は騎士以外にあまり話せるものではない。

 一般人には全てが終わったら普通の生活を送ってほしいのさ」


「おいおい、誰が口が軽い男だよ。

 俺は言っちゃいけない事は何があっても言わない誠意の塊のような男だぜ?

 これでも信頼と安心を周囲にふりまいてるってお墨付きだ」


「そうですかね?」

 何故か昂我の隣で首をかしげる凛那。


「何故、疑問系なんだ!

 眼鏡でもかければいいのか、見た目から入れば疑われないのか!」


「まずはその軽い口調を直さないとな、一言多いって通信簿に書かれたことないか?」


「ないって! さっきだって凛那は寝起きが可愛らしいって話は誰にも言ってないんだぜ、あ」


「赤槻昂我、狙ってるな」


 冗談だと分かっているだろうが、呆れた顔で浅蔵が俺を見る。

 俺の隣にいる凛那に至っては、無言でこっちを睨んでいる。


「あ、いやこれもお約束かなーって……」

「余計なことは言わなくてもいいんです!」


 もう! といって凛那は顔を背けてしまった。


「ほう、あの誰にでも人見知りだった凛那君が、ここまで打ち解けるとは。

 もう木の後ろにばかり隠れていた幼い頃とは違うようだ。

 あの頃はずっとついてきて可愛かったものだよ」


 はっはっは、と笑うので昂我も浅蔵と一緒に笑いだす。


「せ、先輩まで何言ってるんですかー!」


 凛那は頬を染めて、うう、と小さく唸った。


「しかし、先ほどはこれ以上は言えないとは言ったが、今は仕方ない。

 レプリカを見張る役目の凛那君とは離れられないし、耳に入った分は仕方ない」


 浅蔵の左手の甲の光が消える。

 ダイヤモンド・サーチャーの展開を解いたのだろう。


「黒騎士の言葉で気に掛かる事があったからあの後、屋敷の書庫で調べたんだ。

 黒騎士が僕達の騎士紋章を見抜いたのは騎士に恨みがあるから、その程度の知識は持っていると考えられる。

 しかし会話の中で『零がいない、今』と言っていた。

 それが僕は気にかかったんだ、その零とは一体何者なのだろう」


 凛那も聞いた事ないのか浅蔵の言葉をオウム返しに口ずさむ。


「零……?」


「まずは他の騎士たちの情報を調べたんだ。

 僕は騎士団長の騎士紋章を持つ《金剛》、凛那君は《紅玉》、残りは《柘榴》、《紫水晶》、《藍玉》、《翡翠》、《月石》、《橄欖》、《青玉》、《紅水晶》、《黄玉》、《瑠璃》の全十二席」


 その文字の並びに昂我はピンと来るものがあった。


「誕生石なのか、騎士は」


 よく知ってたな、と驚いた顔で浅蔵はこちらを見る。


「騎士鎧の武装には紋章と同じ原石が使用されている。

 凛那君のルビー・エスクワイアの《月をも貫く槍》の先端部分の刃は巨大なルビーの原石だ。

 僕のダイヤモンド・サーチャーは光り輝いていてよく見えないけど、たぶん刀身がダイヤモンドだと思う」


 それで、と浅蔵は続ける。


「現在の騎士紋章の持ち主の名前までは書かれていなかった。

 それは多分、戦いで命を落とせばすぐ次の者に騎士紋章が移動するからだろう。

 だから戦いの多い時代、所有者を書いても埒があかなかったのだろう。

 また鎧の能力も記載がなかった。

 それに関しては敵対組織が見た場合の事を考えてだろう。

 さて、本題だが……この中には『零』と呼ばれるモノが無かった」


「そりゃ無い事もあるんじゃないか?

 騎士の本名かもしれないだろ?」


「勿論その可能性もある。

 だがあの黒騎士は僕と凛那君の事を『金剛』と『紅玉』と呼んでいた。

 本名を呼ぶ可能性は低い気がする、呼ぶなら騎士紋章名だ。

 それに黒騎士は鎧に変化する前、僕達に必死に倒す方法を伝えていた」


 倒す方法、それは《月をも貫く槍》を持つルビー・エスクワイアの一撃だろう。


「――零がいない今、黒騎士を倒せるのは紅玉騎士の槍しかない。

 この言葉、《月をも貫く槍》と同等の威力を持つ《零》というシステムか、倒せるに値する《零》という人物だと僕は思う。

 凛那君が黒騎士を倒すのが確実な方法かもしれない。

 だが零という他の方法も調べておけばより確実だろう。

 例え失われたモノだとしても、そこから黒騎士討伐に関するヒントを得られるかもしれない」


 より確実な方法を見つけて被害を少なくして黒騎士を討伐する。

 不確定なものを消し、確実な成功を手にするために行動する。


 いかにも浅蔵らしい完ぺき主義な行動だと昂我は思った。







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