第15話 通り魔-状況
その後すぐに家を発ち、ナイトレイ家から三キロ地点、現場は住宅地の一角。
周囲の民家に人の気配が無いのは今日が平日だからだろう。
この辺りは碁盤の目の様に区画が分かれており、道路も真っ直ぐで見通しが良い。街灯が等間隔で並び、夜はきっとぼんやりと灯っているのだろう。
「遅かったな」
白いコートに身を包んだ浅蔵が到着と同時にそう言い放った。
「ああ、凛那の寝ぼけの話題で少し遅れ――」
「あ、あの、その、現場はどんな状況、なのですか!」
会話を遮る様に凛那が昂我と浅蔵の間に割って入る。
「あ、ああ、状況なんだが――」
凛那の慌て様に珍しさを感じているのか、不思議な顔をするも特に追及はせず、浅蔵は路上にしゃがみ込む。
「血痕の後はしっかりと拭き取られているが、成分は若干残っている」
手の甲が僅かばかり光を帯びる。昂我には確認できないがダイヤモンド・サーチャーが発動しているのだろう。
「血液型はAマイナス。警察は斬りつけの事実はともかく甲冑の件は酔っ払いの見間違えとするらしい」
ダイヤモンド・サーチャーの《全知の視界》では、酔っ払いの事実を確認できないがな、と付け足した。
「その判断も仕方ない。何せ『黒い甲冑を身にまとった人物に切り付けられた』だ。飲んでなくとも酔っ払いの戯言と思いたくなる」
直接黒騎士を見たことがなければ酔っ払いか過労か、見間違えと受け取られても仕方はない。
「拭き取りきれていない血がダイヤモンド・サーチャーで幾つか確認できる。かなりの散らばり方から鋭利ではない……もっと乱暴な道具で斬られた印象だな。こんな感じで大振りに」
浅蔵が立ち上がって、左から右に手を動かす。
「なおこの近くで折れた標識が発見されたそうだ。先ほどの推測からそれが凶器だろう。それで大事なのはここからだが」
浅蔵は声のトーンを落とす。
「浅蔵家は四桜市の関係各所と繋がりがある。勿論警察ともだ。そのうちの情報の一つだが、他にも同様の通り魔事件が二件あったと先ほど連絡が入った」
「一日、しかも昨日の夜だけで二件? これも含めると三件か」
「ああ。しかも全ての事件が深夜三時台と時刻が近い割に現場の距離が随分離れていてね。紅葉区や石霧区まで広がっている。
県内の反対側だぞ? そちらでは標識以外にも周囲の外壁などが破壊されている。被害者はどちらも夜遊びをしていた緑木高の男子学生さ」
「うちの学生か……確かに夜遊びしてるような連中もいるからなあ……難儀なこった」
「こちらは切り付けられることは無かったようだが、ショックのせいか放心状態らしくてね。うちの病院に入院中さ」
やれやれといった風に浅蔵は首を振る。
「犯人は同じだと考えられているが時刻や場所を考えると、複数犯の犯行との見方も浮上している。標識をへし折る犯人が何人もいても困るがな」
「それはつまり、この通り魔は予想通り、黒騎士って事で間違いないのか」
「僕はそう考えている。黒騎士が夜な夜な人を襲っているとね」
夜な夜な襲う黒騎士、それは都市伝説やホラー映画の類にしてはいささか陳腐な内容だが、こうやって事件となると呑気に冗談も言っていられない。
「けど疲労回復中は活動しないんじゃなかったのか」
俺は昨日の浅蔵達との会話を思い出す。
「所詮推測だ。血を求めることで体力を回復する化物は幾らでもいるしな」
「ということは、黒騎士も体力の回復をするために地味に活動してるってことか……」
「血液には魔術的な要素があり、人外の者には主食としてよく好まれている。その線も零ではないって程度さ」
「嫌な話だ。吸血鬼ってことか」
「吸血鬼ならこの程度では被害は済まないだろうがな」
浅蔵は笑いながら、引き続き周囲をダイヤモンド・サーチャーで探っている。
「他にも何か分かるか?」
「ダイヤモンド・サーチャーの《全知の視界》は今の状況分析以外にも、蓄積したデータにより、『起こった過去』と『起こりうる未来』を見せてくれる」
浅蔵は遠くを見つめながら辺りを見渡す。
ここで黒騎士が何をしたのか、現場の状況からダイヤモンド・サーチャーの瞳を通して、過去を確認しているのだろう。このとき浅蔵が独り言のように呟いた。
「この視界で成り上がったのか……」
「どうかしたのか?」
「すまない、聞こえたか」
浅蔵はこちらを見ずに言葉を続ける。
「こうやって《全知の視界》を扱うと分かるが、父親はダイヤモンド・サーチャーを駆使して医療を行っていたんだなと思ったんだ。
精密な動作や病気の原因解明、それらを全てこの能力で行って、今の地位を築いた。
何百年も眠っていた力を医療で使うのは素晴らしい事だとは思う。
……思うが、父親は医療の知識はまるでない人なんだ。
だからなんていうか、勉強で医師の立場を勝ち取った人たちもいるなかで、騎士鎧の力で全てかっさらったと思うとね……複雑な心境さ」
皮肉たっぷりに浅蔵は吐き捨て、再び地面を触ったり、周囲の壁などを手探りで確認している。前日からどうも父親の話題になると、刺々しい口調になる。
「親父さんが苦手なんだな」
「苦手? 苦手なんてもんじゃないさ。あの男は自分の私利私欲の為なら、ダイヤモンド・サーチャーを失った今でも様々な手段や言葉を使って周囲を巻き込み実行する。しかも最終的に上手く行くから達が悪い。正論が全てって男さ」
私利私欲のためでも周囲を動かすカリスマ性と巧みな話術、能力を持っているのならば、よっぽど優秀な人物なのだろう。
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