第45話 昂我-断罪者

「浅蔵、あんたは強い。

 今もダイヤモンド・サーチャーは俺を分析できないんだろう?

 それでその動きなら世界レベルだぜ」


「剣を交えて確信する。

 やはり貴様はただの学生ではない――。

 ただの学生の動きならば、それならば、まだ希望はあったが……!」


 剣を向けてきても尚、自分を一瞬でもただの学生であると祈ってくれたことに感謝する。


 動けば動くほど体は温まっていくが、心が芯から冷えていくのが分かる。打撃を入れれば入れるほど、拳に熱がこもり、心は徐々に欠けていく。


 いかんいかんと頭を軽く振り、理性を保つ。

 自身をしっかりとイメージし、自我を固定する。


(そうこんな時こそ、相手を弄りながら軽快なトークでも入れるのが、普段の赤槻昂我だろう)


「今だから聞きたいんだがな、いや、失礼に値するから聞かなかったが――」


 後方に跳躍し、ダイヤモンド・サーチャーと距離を取る。


 あんなに硬い盾に打撃を入れているのに己の拳は血が滲んでいる節がない。これはいよいよ、この体に起きている現象を疑わなければいけない。


(もう大分予想はついているが、な)


「その騎士鎧、本物なのか?」


 言ってしまってから、「あ、攻めすぎたか」と昂我は反省した。

 拳を交えているせいか、つい考えたことをそのまま口にしてしまったのだ。


「何を戯けたことを!」


 流石の昂我の物言いに、浅蔵も全力で仕掛けてきそうなほど激昂する。


(そりゃそうだ、敵の騎士にこんなことを言われちゃ、火に油を注ぐ様なもんだ。俺でもそうする)


「だってそうだろ。考えてみろよ、浅蔵。ダイヤモンド・サーチャーの能力は全てを見通す能力だ。状況やその人間の状態を確認できる」


(――口が滑ったのは間違いだが、この賭け悪くないかもしれない)


 まだ状況の全貌は掴めないが浅蔵の輝きを鈍らせている何かを、この問いは払拭できる糸口になるかもしれない。


「しかしだ。騎士鎧だぞ?

 現代兵器を全て無効化し、これまで人類の脅威を防いできた武装。

 それがこんなもののハズがないだろう?」


「こんなもの――だと」


 浅蔵の怒りが徐々に上がって行くのが手に取るように分かる。


「これまできっとどんな魔術も秘術も化物も倒してきたんだろうさ。

 だが騎士団長でもあるダイヤモンド・サーチャーは本当にそれだけなのかと言ってるんだよ。

 それじゃ、ヒーローじゃなくて、物語の序盤で死んじまう脇役以下だぜ?」


 力を手にしたばかりの新人騎士だからといって、それほどまでに能力は扱えないものなのか、先代のレクチャーがなければ満足に動かせない代物なのか、いや多分そうじゃない。


 騎士同士はお互いの能力を無効化するならば、ダイヤモンド・サーチャーの能力では相手の情報は探れない。

 だから黒騎士と化した黄玉騎士相手に力を発揮できなかった。


 だが、そうじゃないだろう?


「全てを知る事ができるならば、黒騎士本人じゃなく、次の行動に移る視線、身体の動きから生まれる空気の変動、予測される未来、それら外的要因を見れたはずだ。

 だがそれすら見えないなんて、感度の低い探知機じゃないか」


 相手の痛いところを突くのはあまり赤槻昂我らしくないが、この場合は致し方ない。 昂我の言葉を聞き、浅蔵は静かに盾を捨てた。盾は光の粒子となって粉雪の中に消える。


 両手剣を両手で握り、左足を後ろへとずらし、剣道でよく見る正眼の構えへと移行した。


「僕が父の想いと共に受け継いだ金剛の紋章、これまでの金剛保持者すら侮辱する言葉だ」


 正眼に構えたまま昂我へと突進してくる。

 だが昂我は引かず、身を低く落とす。


 浅蔵が剣を振り上げ、面――頭頂部を狙って振り下ろした時、昂我の全身は一気に熱が抜けて氷のように冷たくなった。


「――流、鷹落爪」


 振り下ろされる光剣に対し、身を捻じって避け、カウンターの一撃としてダイヤモンド・サーチャーの顎を狙い、全身のバネの力で掌底を突き上げる。


(完全に捉えた)


 浅蔵には悪いが手加減していても骨の一つや二つ、やってしまうかもしれない。

 だがそこはさすが騎士鎧保持者。


 意識が体よりも早く動いたのか、昂我の右拳と兜の間に巨大な光の盾を構築した。


「ぐっ!」


 拳と盾がぶつかり、銅鑼のような鈍い音が鼓膜を揺らす。

 光盾はそのまま上空へと打ち上げられ、光となって消えた。

 ダイヤモンド・サーチャーと浅蔵は無理やり身をよじり、雪原へと背中から倒れた。


「いってて、つまり、そういうこった」


 昂我は振動で痺れた腕をぶらぶらと揺らしながら、浅蔵を見下ろす。


「騎士の攻撃と現代兵器を無効化するのに、何故俺の拳を防いでるのか?

 俺が騎士だとしても同じ騎士の攻撃はほぼ無効化され、俺がただの人間だったとしても、この拳の攻撃なんて傷一つつかないだろう?」


 浅蔵は何も言わず見上げてくる。その瞳に悔しさや怒りの感情は見えない。

 あるのは戸惑いのように感じられる。


「つまり浅蔵は――ダイヤモンド・サーチャーすらも、俺の攻撃でダメージを受けると直感してるんだろ? それはつまりその鎧が、あっ」


 な、に――。


 背後から縦一文字に背中を斬られ、昂我は地面に前のめりに倒れた。振り返るにもあまりの痛さに身動きする事すらできない。左脇腹なんかよりずっと痛い。


 ワザと致命傷を避けたのか、そのせいでまだ意識は残っている。


「零――」


 血を流しながら痙攣している昂我の近くで浅蔵が立ち上がった気配を感じる。


「止めを刺されるかと思い、手を出してしまった」

「いや……助かったよ」


(零だと。あの野郎がまだいたのか――何故、浅蔵と行動を共にしている……)


 血を流しすぎたせいか意識は徐々に薄れ、全身が熱した棒をあてられているように熱い。


 土と雪に顔を汚しながら、何とか見上げようとすると、零は俺の頭を片手で掴み持ち上げた。


 零は昂我の前髪をかき上げ、左目がない事をつまらなそうに見て、脇腹に一撃を見舞った。


 遠くで夕陽が口元を押さえて悲鳴を上げるのを確認したのが、最後の記憶だった。







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