第44話 騎士-獣

「赤槻昂我、僕は貴様のような人間が嫌いだ」


 浅蔵の目は真っすぐに昂我を見つめ、背中には夕陽を庇うように、ダイヤモンド・サーチャーを展開している。


「いつもへらへらして、他人の事を知ったような口ぶりで無責任な言葉で期待を持たせる。そうやってこれまで何人の友人を騙してきた」


「俺は……確かに無責任な言葉をよく言うかもしれない」


 落ち込んだ凛那に不確定要素のある無責任な励ましの言葉を送っていたのは事実だ。本当に訪れるか分からないのに、人生捨てたもんじゃないと思わせようとし、もしできなかった時の事を考えてなかった。


 期待だけを持たせ、期待が裏切られたときのことまで考えていなかった。


「けど騙す気はなかった。どんなに悲しい出来事があっても、踏み出さなければそこから抜け出すことはできない。だから俺は――」


 喉元に刀身の形もしっかりと認識できない剣先を突き付けられたまま、壬剣を見つめる。


「知ったような口を!」


 昂我の声をかき消す浅蔵の一喝が、雪降る夜に響き渡る。


「綺麗事ばかり並べても、僕の意志は揺るがない」


 ダイヤモンド・サーチャーの光り輝く剣――光剣を浅蔵は胸の前で握りしめる。その姿は中世の騎士が祈りをささげる様な素振りだった。


「黄玉騎士赤槻昂我、剣を抜け、これ以上の言葉は無意味。

 この騎士の共振、不快すら覚える」


「今は何を言っても無駄なんだろう」


 浅蔵壬剣という男と過ごした時間は、けして多くはない。

 しかし数日、彼と一緒にいただけでも分かる。


 彼は普段の生活でも責任感が強く、多くの人を気にかけ、人々を率いてく上で必要なものを持っている人物だと思う。


 金剛騎士としてもその意思はダイヤモンド同様に硬い。

 けして揺らぐことのない永遠の光だ。


 だからこそ言葉ではなく、己の意志を乗せた拳でなければ伝わらない。伝えきれない。


 昂我は両腕のパーカーの袖をめくり、息を鼻から深く吸い、口から吐ききれなくなるまでしっかりと出す。


 腰を深く落として重心を安定させ、右手を前に出し、左手を右手の下に添える独特な構え。


「素手だと……?」


 浅蔵が戸惑いの声をあげる。

 ファントムに刺された左脇腹が痛むが意識を失うほどじゃない。


 男の本気ってのは、出すべき時しか出してはいけない。

 それ以外は全部適当にやっておけばいい。

 

師匠はそんなことを言って、いつも適当に過ごし、飯の準備は全部昂我にやらせていた。


(今こそ、男が本気になる時だよな――師匠)


 身体は何かに憑りつかれているように相変わらず重いが、泣き言は無しだ。


「浅蔵、俺は確かに隠し事をしてきた。

 すまないと思ってる。

 けどここだけは選択を間違っちゃダメなんだ」


 浅蔵は答えない。

 右手に剣を構え、左手に己を覆うほどの巨大な光の盾を構える。


「善悪の境界線なんてありゃしないが、せめて多くの人が笑える話を目指したい」

「信頼を弄んでおいて、よく言う!」


 ダイヤモンド・サーチャーを纏った浅蔵壬剣が、昂我に一瞬にして迫る。


「金剛騎士、浅蔵壬剣、団長として、貴様の過ちを叩き斬らせてもらう!」


 昂我自身、今拳を交えるのが最善か分からない。

 だが、思いを伝えるにはこれしかない。


「――赤槻昂我、いざ、参る」


 浅蔵の剣筋は彼の性格をよく表している。


 猪突猛進とまではいかないが、迷いのない実直な太刀筋だ。

 刀身は光に包まれており、ハッキリとした長さが分からないので、下手に踏み込むことができない。


 隙を見て左手からのジャブを打ち込むと、浅蔵はすかさず盾で一撃をガードし、金属音が弾ける。明らかに昂我のスピードが足りていない。これは日頃から感じる体の重さのせいか。


 これではダイヤモンド・サーチャーの盾を突破することはできない。


 浅蔵は時には大降りに横に剣を凪、時にはレイピアの様に突きを繰り出すが、足の運びと視線を確認している昂我からすれば避けられない代物ではない。


「貴様、妙な動きをする――!」


 ダイヤモンド・サーチャーの動きは浅蔵の動きそのもの。

 一般的な高校生の動きにしては大分、実戦向きな――そう、何らかの覚悟や意志が乗っている太刀筋だと思う。


「空手、太極拳、少林寺、合気道……そのどれにも当てはまらない。

 お前は一体なんなんだ」


 対する昂我の動きは野生の獣のそれに近い。


 敵をじっと見据えたまま、無駄な動きを省き、確実に打撃だけを入れる。獲物が弱るのを待つようにじわじわと攻める。


「まるで野犬か狼か……!」


 苛立ちを含んだ声が剣を鈍らせる。








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