第19話 浅倉家-2

 赤槻昂我の行動や口調は壬剣からは出ないものだった。


 全く知らずの人間を助ける為に、自己犠牲精神で飛び出す。根拠のない自信で皆を励ます。


冗談交じりの会話でその場を明るくさせ、活力を沸かせる。


 悔しいが彼がいるだけで、その場が華やぐのも確かだ。

 浅蔵はこれまで様々な人間に出会ってきた。


 父親の威光にあやかりたい大人達。父親が街で有名な医者と知って掌を返す友人――いや、知人達。これまでの誰もが浅蔵の顔色や浅蔵を通して父親の姿を見ていた。


 しかし赤槻昂我はそんな事はない。

誰とでも同じように自分と接している節がある。


 何も考えていないただの『阿呆』と言ってしまってはそれまでだが、あんな男はこれまで見た事がなかった。


 自信の損得を考えず、他人と接する男、それが赤槻昂我。


(彼を見ていると僕が『損得だけを考えて動く男』だと思えてしまうな)


 実際はそうなのだが。

 人付き合いも突き詰めればすべて自分のため。


 いつか自分に返ってくるから誰かを助けるし、勉強にも手を抜かない。

そしていつかそれが他人を助ける事にもなる。

しかしそれも他人を助けたいと第一に考えている分けではない。

結局のところ、助けた後も自身に何らかの利益があるから手を出すのだ。


 誰も何も言わないが、世の中は結局そうして回っているのだと思っていた。

 そして嫌っている父親と結局は同じ考えをしているとも思っていた。


 もし赤槻昂我のように少しでも生きられたなら、もう少し、何かは違っていただろうか。


 騎士でもなく、学校も違う、絶対に出会わなかったであろう男のように――。


 赤槻昂我に嫉妬心が生まれ、それを認める事すら馬鹿らしくなり、壬剣は頭を振った。


「……まったく、何を考えているんだ」

(その男の為にもしっかりしなくてはいけない)


 ――と考えている自分に苦笑する。


 本来の自分なら『赤槻昂我ではなく、どんな手段を使ってでも人類を守る』だろうに。


 コートのポケットから本日手に入れたポールの切れ端を取り出す。


 先端は人外の力で無理やり引きちぎられており、そのまま凶器に使えそうなほど尖っている。反対側はダイヤモンド・サーチャーの剣でカットした為、切り口は滑らかだ。


 意識を集中すると左手の甲に光が集まり、白鎧ダイヤモンド・サーチャーが展開される。


 先端についている粉は、物凄い力でポールを引きちぎったときに付いたものだろう。成分は顕微鏡などで確認しないとハッキリしない程に微細な粒子だ。


 ダイヤモンド・サーチャーを使用すると意識が白鎧と同化し、壬剣の両目の視点以外にも白鎧の視点を感じ取れる。視点は徐々にズームアップし、粉の結晶までも確認、さらにその奥へと進んでいく。目指すは分子の領域だ。


 僕は解析しつつも立ち上がり、己の目で現実も把握しながら本棚の前で立ち止まる。片手で引き抜いたのは鉱石が描かれている事典だ。


 ページを持って椅子に再び座り、ページを次々と捲りながら、該当する化学式を探す。


「これはケイ塩酸鉱物か……フッ素……にアルミニウム……だと?」


 嫌な予感が背筋を伝う。

 フッ素とアルミニウムで構成された鉱石、しかも黄色がかっている。


「馬鹿な……そんな事があるのか? 何故!」


 しかし何度ダイヤモンド・サーチャーで確認しても物質の構造は変わらない。この微細な粒子一つ一つが、もっとも辿り着きたくない答えを示している。


 だがもし、この物質がそうだとしても何故あんな所にあるのか。楽観的に考えれば『援軍』がこの街に来たと考える事も出来る。


 しかし状況は通り魔だ。しかも民間人を無差別に斬りつける黒い鎧の怪物。

 通り魔は証言から黒騎士に間違いないだろうが、問題はそこではない。


 黒騎士がこの粒子の持ち主だという事が問題なのだ。

 ならば黒騎士化する前のあの男が、僕と凛那君を騎士だと認識したのも合点がいく。


 騎士に恨みを持っているから騎士を知っていたんじゃない。

 己が騎士だから知っていたんだ。


 「この粒子は……だ」








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