24曲目 幼いころの夢
コンビニから帰り、スターラビットは多喜も巻き込んで円になってアイスを食べていた。いつもはプロデューサーだからとあまりレッスン以外で深くメンバーと関わろうとしなかった多喜だが、今回は勢いに押されて負けてしまった。
「プロデューサーはさ、小さい頃からこういうプロデュースに興味があったの?」
「う、うんまぁ」
育に尋ねられ、多喜は視線を泳がせて頷いた。多幸が変なことを言ったのかと一瞬疑ったが、育の目の輝きから何も聞いていないようで多喜はメンバーに気づかれないように安堵した。
「皆は、小さい頃の夢とかあった?憧れていたやつとか。できればアイドル以外で」
多喜は話を変えようと歌詞の情報収集も兼ねて尋ねた。それぞれアイスを食べながら思い出すようにメンバーは宙を見た。
「俺はね、駅員さんだったんだよね。マイクを持っていたから」
歩は照れたように笑った。
「俺は警察官!ドラマか何かに影響されていた気がする」
「育らしいな」
「それいい意味だよね!?そういう大貴君は何なのさ」
「俺は幼稚園の先生だよ。一番の人気者の先生がいて俺もそうなりたかったんだ」
「めっちゃ可愛いエピソードじゃん!俺、好きになるわ!」
育は悔しそうに大貴に指ハートを送った。そんな育に苦笑しながら周音は思い出したように食べ終わったアイスの棒をコンビニの袋に入れてゴミをまとめ出した。
「俺はコックさんかな。育と一緒でテレビを見てさ」
「俺もテレビ見て医者に憧れてたらしい。蓮は?」
「俺はねぇ、大工さんだったと思う。ガテン系かっこよくて」
「待ってめっちゃ蓮君のイメージのギャップがある!由君は?」
歩は隣で黙って聞いていた由春を見た。
「えっと」
由春は一瞬言葉に詰まった。あの時のトラウマが頭に蘇り、口をパクパクと動かしているものの、声が出なかった。
「由春?大丈夫?」
大貴に尋ねられ、由春は頷いて深呼吸した。
「僕の小さい頃の夢はね」
由春はゆっくり口を開いた。
「魔法少女だったんだ」
由春はそう言った後、ぎゅっと目を瞑った。嘘だってつけたのに本当のことを言ったのはメンバーを信じたいという由春の想いからだった。それでも怖くなって由春の心臓は飛び出しそうなほど激しく動いていた。
「え、めっちゃ可愛いじゃん!」
育の言葉に由春は目を開けた。
「お、俺も姉ちゃんがいたから魔法少女のアニメ見てたからわかるよ!魔法少女の魔法って結構かっこいいし、憧れるよな!」
育は屈託のない笑顔でそう言うと、蓮太郎も頷いた。
「動物の友達とかいて、俺も欲しかったなって思った記憶あるよ」
「確かどんどん衣装も派手になっていたよな。妹が見てたの思い出すよ。あの変身シーンは豪華だよな」
「あ、わかる。派手な衣装と変身は俺もやってみたいと思ったことある。登場が戦隊ものとは違うかっこよさがある」
周音に同意する和哉を見て、大貴は由春に向かって微笑んだ。
「由らしい夢で良いと思うよ。幼いころから由は俺らの知っている由春なんだってわかって愛おしい」
「みんなぁ、本当に大好き!」
由春は潤んだ涙を流さないように嬉しそうに笑った。中学時代に笑われた内容はメンバーにとってはそんなことなかったようだ。信じてよかったと由春は心の底から思った。
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