17曲目 【小文字のi】※

 画面に映った七人の男子高校生に人々の目は釘付けになった。パーカー、ジャージ、セーター、ペスト、ジャケット、シャツのみと着方に個性が出る七人はマイク片手に曲に合わせて踊り始めた。それぞれ衣装の中のどこかにメンバーカラーを取り入れており、制服でもカラフルなスターラビットの世界観が画面の奥にはあった。


【小文字のi】

 僕の気持ちはいつだって小文字のi


 いつからなんて覚えていない

 たぶん夏頃だったかな

 ふいに君が好きだと思ったんだよ

 その日から君は

 いつだって僕の頭を占領する


 君はどう思ってくれているのかな

 話してくれるということは

 嫌われてはいないんだろうけど

 知りたいのに知りたくない

 知ったら何かが変わりそうで

 それが怖くて仕方ないんだ


 不安なんだってこのi love you!

 気持ちが大きくなりすぎて

 溢れて気づかれないように

 心のうちに秘めておくから

 僕の気持ちはいつだって小文字のi


 きっかけなんて覚えてない

 たぶん君と話した時

 笑顔が眩しく輝いていたんだよ

 くさすぎるかなでも

 心からの本心だから


 君はどう思ってくれているのかな

 隣に座ってくれるのは

 嫌われていないんだろうけど

 難しすぎる片想い

 時々つらくもなるけれど

 手放したくはないんだ


 気づかないでってこのi love you!

 距離が近くなるほどに

 気持ちの距離も縮まって

 君に触れちゃいそうだから

 今はまだ隠したい僕の小文字のi


 君はどう思ってくれているのかな

 そう思うなら

 聞けばいい話なんだけど

 伝えたくない僕もいて

 聞きたい僕と喧嘩する

 あーもう!どうすればいいんだ!


 大きくなってくこのi love you!

 抑えれば抑えるほどに

 膨らみ続けるこの恋は

 そのまま飛んで行きそうで

 僕の背中を押そうとする小文字のi


 伝えたいよこのi love you!

 やっと心に決めた

 小さかった想いは

 隠しきれないほど大きくて yeah


 また会いたいんだ、ねぇ、i love you!

 どんな結果だったとしても

 後悔はないよ

 いつかまた僕の中に来て

 眩しいほど愛しい小文字のi



[コメント欄]

《大貴くんイケメンすぎて泣いた》

《サビ前の表情好き》

《かっこいい!!!!!!》

《紫、大人っぽいな》

《歩くん大好き♡》


 新曲のパフォーマンス動画を投稿するとスターラビットのコメント欄はほとんど大貴に染まっていた。優しい表情の大貴の顔が一気にもどかしさに戸惑う、もどかしさと戦おうとする顔に変わる様子が多くの視聴者の心を射貫いたのだ。再生回数が1万に達した結果、スターラビットは見事一回戦を突破した。

「ん?」

 大貴はメッセージアプリを開いた。

《おめでとう。これからも応援している》

 吹っ切れたとしても消せなかったかつての片想いの相手からきたメッセージに大貴は目を見開いた。

「大貴、どうした?」

 スマホを見つめたまま固まっている大貴に周音は声をかけた。

「ううん、ちょっと、嬉しいことがあったんだ」

 大貴は微笑んだ。薄っすら浮かべている涙に周音は気づかないフリをしてメンバーを指さした。

「あっちで投稿動画を撮るんだって。小文字のiのダンス動画だから、大貴が真ん中だよ」

「わかった、楽しみだね」

 大貴は手招きをするメンバーの元に向かった。どんな結果だったとしても自分のあの頃の気持ちは愛おしいものだったのだ。そう思えるメッセージに大貴はようやくアイドルとして前に進める気がした。



[スターラビット 投稿動画]

 真ん中の列に歩、大貴、由春の順で下段に周音と和哉、上段に蓮太郎と育が立ち、小文字のiを踊る動画。

[コメント欄]

《やっぱり紫、イケメンだな》

《和哉くん、ビジュ神》

《オレンジと緑、誰かコメントしてやれよ》

《蓮太郎くん♡》

《由春くん、天使かな?》

《赤以外イケメンいなくて草》


【作者コメント】

 1回戦突破おめでとうございます、小林六話です。今回、この小説において今更ですが、この小説の世界での投稿動画に対するコメントの一部を皆様にも読んでもらえるようになっています。ぜひ、投稿動画の様子もお楽しみください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る