18曲目 荒木和哉

 一回戦を突破したことで徐々にコメント欄もフォローも増えていき、スターラビットの名前は徐々に頭角を現すようになった。学校でも注目されるようになり、登下校中も声をかけられることが増えた。

「新曲はバンバンだしていきたいの」

 多喜は宣言した。一回戦を突破したことでショッピングモール等で開催されるライブに招待されることが増えたが、披露していい曲は既に発表済みの曲のみなのでスターラビットは二曲しか手持ちがない。

「新曲は公式アカウントで出すことができるから、それに出したら発表済みの曲にカウントされるの。だから、できるだけ皆の可能性を広めたくて新曲を多く出したいって思っているんだけど、その場合ダンスとか覚えることが多いと思うんだ。そうなると、皆も大変だと思うの」

「何言ってんのよ、プロデューサー。僕らなら大丈夫だって。ねっ!」

 体育座りで聞いていた由春は両手で拳を作って微笑んだ。

「そうそう、チャレンジ精神大事だし、俺らのこと思ってくれているわけでしょ?」

 周音も頷いた。

「ていうか、俺は皆にもっと会えるから嬉しいけどね!」

 育は両隣に座る蓮太郎と和哉の肩に手を回した。

「うん、俺も」

 蓮太郎は嬉しそうに笑った。

「俺だってもっとみんなでやりたいって思ってたよ!」

「そうだね、楽しいもん」

 歩が負けじと立ち上がると、それを見て大貴は微笑んだ。そして、メンバーはまだ何も発していない和哉を見た。

「まぁ、その、俺も」

 和哉は口を尖らせながら照れくさそうに呟いた。

「素直じゃないんだからもー!」

 育はそんな和哉に笑いかけた。

「本当に仲良しさんだよね、あのトリオ」

 由春は隣に座る周音に話しかけた。

「確かに、あの三人はいつも一緒だよな」

「仲良しさんで見ていて微笑ましいよ。蓮君と育君は学校も同じだし」

 由春と周音の会話を聞いて、多喜は和哉を見た。



 ヘッドフォンで周りと自分を遮断して、好奇な目を全身で浴びながら和哉は早く今日が終わればいいのにと考えていた。放課後になればメンバーに会える。それが和哉の楽しみだった。自分達の曲を聴きながら、初めて撮ったレッスン後の集合写真から始まった記念写真やメンバー内で撮り合った写真、また投稿した動画を見て和哉は学校での一日を過ごしていた。勿論、和哉は学校で仲間外れにされたことはない。アイドルになってからファンができ、移動教室中に話しかけられることも多い。それでも和哉が学校で一人なのは一匹狼に自らなってしまったからだ。

「げっ、マジかよ」

 メッセージアプリに届いた育と蓮太郎からのメッセージに和哉は肩を落とした。どうやら二人とも学校の方の用事でレッスンに遅れるとのことだった。

「早く行っても誰かしらいるよな」

 和哉は静かに呟いた。

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