スターラビット~僕らは最高のアイドル~

小林六話

1曲目 全国アイドル部コンテスト ※

 大晦日12月31日、キラキラ輝くステージに立つやり切った表情の少年達は手を組んで祈るように審査員の言葉を待っていた。テレビ越しでも伝わるその緊張感は見ている者の手さえも無意識に組ませた。

『優勝チームはシュバリエです!』

 読み上げられた少年達は顔を上げ、徐々に頬を紅潮させて泣き出し、抱き合いながら喜びをメンバー同士で分かち合った。名前を呼ばれなかったチームは悔しそうに、それでも称えるように拍手を送った。そんな美しい光景に興味を示すことなく、岡田多喜おかだたきはアイドル育成ゲームに勤しんでいた。そんな彼女の横でテレビ画面を食い入るように見つめていた彼女の祖父、岡田多幸おかだたこうは勢いよく立ち上がった。

「これだ!」



 岡田多喜は二次元に全てを注いでいる生粋のオタク女子高生だった。青春をイケメンキャラクターに捧げ、彼らと共に過ごし、多喜だけが歳を重ねて今日に至っている。暇さえあれば二次元の世界に飛び、様々なキャラクター達と交流して癒されていた。

「アイドルグループをプロデュース?」

 そんなオタクライフを満喫していた多喜は目の前に座って自信満々な顔である多幸を見て聞き返した。好奇心旺盛で年齢を重ねても流行や若者文化を吸収している多幸は地元でも有名な成功者だった。広い顔と社交的な性格から知人も多く、何かあったら未だに多幸を訪ねる者もいるほど人望もある多幸は仕事の第一線から退いた今も、様々なプロジェクトに参加していた。そのうちの一つが地元を盛り上げるプロジェクトだった。

「そうだ。私達の住むこの卵ヶ丘市は可もなく不可もなくといった感じの所謂平々凡々な街だ。これといった観光名所もなければ、大きなショッピングモールもない。ご当地料理は他の市が担っていて特になく、だからと言って雑誌やネットで紹介される食べ物屋も少ない。つまり、注目がされないのだ」

「でも、別に困ってないじゃん」

 多喜は意味が分からないと言い返した。

「地元が盛り上がるのだ、いいことではないか。それに」

 多幸は多喜を見つめたまま、口角を上げた。

「夢のあるこの卵ヶ丘の若者の夢を叶えたい。この前のテレビを見て、そう思ったんだ。あんな美しい光景、私もみせてあげたいのだ」

「つまり、全国アイドル部コンテストに魅了さえたのね、おじいちゃんは」

 全国アイドル部コンテストとはアイドルユニットを形成した少年達がオリジナルパフォーマンスを披露して優勝を目指す若者の注目の的になっているコンテストである。コンテスト出身の俳優やアイドル、インフルエンサーなど有名人も多数いるコンテストで、参加者は後を絶たない。大晦日に生放送された最終審査は国民に感動を与える結果であったのもタイムリーな話題だ。ただし、参加条件はオリジナルであることのみのため、参加するチームは元アイドルがフリーになってプロデュースをしていたり、お坊ちゃま学校のチームだったり、芸能人の子供だったりとハイレベルな指導を受けるチームばかりの為、生半可の気持ちじゃ予選すら通過できない狭き門だった。

「その通り!夢を追いかける若者をサポートするなんて、一緒にいるだけで元気を貰えそうだ。勿論、やるからには本気で頂点を目指すがな」

 やる気満々な多幸から漲るエネルギーに多喜は関わりたくないとその場から逃げようとした。

「そして、そのアイドルグループをプロデュースするのが多喜だ!」

 逃がしはしないと多幸に肩を掴まれ、多喜は半ば予想していた祖父の言葉に顔を引きつらせた。

「何で」

「彼らの年齢はだいたい多喜に近い。私よりも仲良くなれると思うし、私よりも引き出す力があると思う」

「ちょっと待って、彼らってまさか」

「あぁ、もうメンバーの募集は済んだ。七人集まった」

「行動速すぎる!まだ、あの生放送見て1ヶ月も経ってないのに!」

 思い立ったが吉日が座右の銘である多幸の行動力は孫である多喜ですら予測できないスピードだった。もう既に今年のコンテストの応募は始まっているが、予選動画の応募締め切りは2月27日である。募集締め切りまで一ヵ月もないののだから善は急げと言えばそうだが、それでも早すぎるのではないかと多喜は少し引いた。

「一緒にやってみないか?まだ、何も決まっていないんだろう?」

 多幸に言われ、多喜は言葉に詰まった。四月で高校三年生になる多喜にはまだ夢がなく、大学進学をするかどうかさえ決められていなかった。

「明後日彼らに会う予定なんだ。メンバー初の顔合わせ、一緒に行こう」

「会うだけなら」

 多幸の笑みに多喜は渋々頷いた。流されるまま大学生になり、そのまま何も考えずに就職するという人生設計にモチベーションがなかったのだ。


【作者コメント】

 お久しぶりです。小林六話です。新作『スターラビット』を読んで頂き、ありがとうございます。初のアイドル小説、初のコンテスト小説ということで私の初の試み満載の小説になっています。拙い部分もたくさんあると思いますが、お付き合いいただけると嬉しいです。

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