9曲目 解決

 和哉の見つけた地元に愛されている食堂でコロッケ定食を頼んだ歩はコロッケとメンチカツの違いを語る育にツッコミを入れる和哉、それを微笑みながら自分はカニクリームコロッケが好きだと呟く蓮太郎、それに同意する由春、味噌汁を静かに流し込む大貴を見て微笑んだ。いつだって賑やかで明るい場にすっかり癒された歩の隣に座る周音は歩に笑いかけた。

「悩みは解決した?」

「えっ?」

「何か最近、元気なさそうだったから。さっきもプロデューサーに悩みを聞いてもらっていたんだろ?」

「周音君、気づいていたの?」

「俺だけじゃない。皆、気づいていたよ。だから、少しでも歩が元気になる様にって、あそこの三人がご飯に行こうって調べてくれていたんだ」

「そうなんだ」

 歩は育、蓮太郎、和哉を見た。

「皆、心配してたんだ。センターになったのが重みになっているんじゃないかって。でも、歩がセンターなのは皆、一致の意見だよ。スターラビットの一曲目だからこそ、歩の輝きが俺達を頑張らせてくれるから」

「うん、ありがとう、周音君」

「ちょっとぉ、周音君一人でかっこいい所、持って行かないでよ!」

 途中から話を聞いていたのか、由春は可愛らしく頬を膨らませた。

「歩さ、変にプレッシャー感じちゃダメだからね!完璧なアイドルなんてすぐになれないから頑張るんだから!」

「そうだよ、スターラビットは歩一人じゃないからね」

 味噌汁を置いて、大貴は微笑んだ。

「ていうか、一人でスターラビット背負おうとか生意気。俺らがいるのにさ」

「ダンス中、最近全然目が合わなくて寂しかったんだぞ!」

「お、俺達にできることだってあるから、一人で抱え込まないでほしいな」

「うん、うん、皆、ありがとう」

 手の平から零れそうなほどの優しさに歩は溢れ出る涙を手の甲で拭った。

「歩、ハンカチあるぞ」

「流石周音君!」

「よっ、お母さん」

「誰がお母さんだ!」

 育と和哉に言い返す周音からハンカチを受け取った歩は微笑んだ。その笑顔にはもうセンターに悩む歩の暗い表情はなかった。



 スターラビットはまたしても変化を遂げた。今までセンターであろうと一点ばかりを見つめていた歩がフォーメーションや歌っている時にメンバーと目を合わせるようになったのだ。

「いいじゃない、一体感が出ているわ」

「チームとしても結束力があって、一段階レベルアップしたね」

 カレイと田口も映像を見て、うんうんと頷いた。

「そうだね。これで予選に送る映像が撮れそうだ」

 迷いもなく、まっすぐに楽しんでいる画面の中のスターラビットを見て多幸も満足そうに笑った。

「ありがとう、プロデューサー」

 歩は多喜を見て、笑顔でピースを作った。その笑顔は自己紹介の時に見たあの自信に満ちた笑顔で多喜は嬉しそうに微笑み返した。

「さて、映像を撮るにあたって衣装を持って来たよ」

 多幸が手を叩くと、スターラビットは目を輝かせた。

「やった!衣装だ!アイドルみたい!なっ、歩」

「うん!」

「みたいじゃなくて、アイドルなんだよ!」

「た、楽しみ!」

「可愛いやつかなぁ?」

「ついに衣装とは緊張するね」

「大貴でも緊張するんだな」

「では、お披露目だよ」

 多幸はラックにかかった白い布を剥がした。スターラビットの感嘆の声と同時に現れた衣装は白い布にメンバーカラーのラインが入っている衣装だった。メンバーによってズボンの丈の長さも変わり、上も首元まで留められるデザインになっているため着こなしに個性がでるデザインだった。また、後ろにはウサギの尻尾がついており、チェーンでバックのように大きな星形のサングラスが斜め掛けしてあった。それ以外の小物はなく、アクセサリーもないがシンプルかつグループ名にあっており、衣装の近未来的なデザインも新しい世界を創ろうとする歌のテーマによく合っていた。

「今までメンバーカラーも決まっていなかったからね。これを機にメンバーカラーも発表するよ」

 ついに発表されたメンバーカラーにスターラビットはそれぞれの衣装を手に取り、顔を見合わせた。これから始まるスターラビットとしての挑戦に心を躍らせたのだ。いよいよ迫りくる予選通過をかけたダンス映像撮影、メンバーカラーの衣装がさらにスターラビットの背中を押した。

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