12曲目 結果 多喜と同い年トリオ

 動画を応募してからしばらく経った3月14日のこの日、全国アイドル部コンテスト応募者145組中予選通過できたグループが公式サイトで発表された。同時に予選で送られた動画が公式動画サイトにアップされ、今年のコンテスト出場グループに注目が走っていた。いつもは学校だろうがどこだろうがゲームに勤しんでいる多喜だが、この日だけは今か今かと混雑する公式サイトの画面が進むのを待っていた。

【全国アイドル部コンテスト 出場グループ 予選通過】

「きた」

 回線の争いに勝利し、多喜は食い入る様に画面を見た。全145組中、予選通過ができたのは80組だ。

「あ、あった」

 様々なグループ名の中にあった、スターラビットの文字とメンバーの顔写真。見事通過した予選の結果に多喜は小さくガッツポーズした。この瞬間、公式サイトにてスターラビットは世間の目に入ることとなる。メンバー達はどうなっているのだろうか。多喜はスマホから目を離し、教室の窓から空を見上げた。



 全国アイドル部コンテストの結果をスマホで見た育は勢いよく顔を上げた。同時にクラスメイト達が自分を見ていることに気づいた。

「えっと」

「樋口君、アイドル部コンテストに出てたの!?」

「凄いじゃん!通過おめでとう!」

「ダンスも歌も今聞いたけど、いい感じだね!」

 育の前に興奮した女子生徒達が集まった。

「あ、ありがとう」

「でも、育でアイドルになれるなら俺らでもなれたかもじゃん!俺らも誘ってくれればやったのに」

「つうか、育がアイドルに憧れてたの知らなかったわ」

 女子生徒に混ざってそんなことを言う男子生徒もいたが、育はそれどころじゃなかった。もう一人、同じ学校に通うメンバーが心配だった。弱々しい蓮太郎がこの騒ぎの中心にいたら気絶してしまうかもしれない。育は笑顔でその場を切り抜け、蓮太郎の元に走った。



 案の定、蓮太郎はクラスメイトに囲まれていた。育は丸くなっている蓮太郎を回収し、噂を聞きつけてか二人を見に来る生徒達の間を縫って校舎裏まで走った。

「凄い影響力、まだ予選通過なのに」

「だ、だねぇ、俺なんてまだサイトで結果見てないのに」

「でもさ」

 育は満面の笑みで蓮太郎に手のひらを見せた。

「予選通過したよ!やったじゃん!ハイタッチ!」

「うん!やったね!」

 やっと二人が予選通過した喜びに浸っていると、育のスマホが鳴った。

「あ、和哉だ」

 ビデオ通話に切り替えて電話に出ると疲れ切った顔の和哉が映った。

「よぉ!和哉!予選通過、やったな!」

『あぁ、それは俺も嬉しい、でもまさかこんなに騒がれるなんて』

「俺らもだよぉ。俺、涙出てきた」

『泣くのは早いぞ、蓮。でもまぁ、気持ちはわかるけど』

「まさか和哉が電話くれるなんてな!」

『いや、まぁ蓮と育なら一緒にいると思って電話した』

「画面越しハイタッチ!」

 育が画面に向かってハイタッチのジェスチャーをすると、珍しく和哉も乗った。

「早く皆に会いたいなぁ」

 涙を袖で拭いながら蓮太郎は微笑んだ。

「だよな!予選通過を喜び合いたい!」

『俺もダッシュで向かうわ』

 メンバーに会えたことが嬉しかったのか、和哉は疲れ切った表情から笑顔を見せた。

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