13曲目 年長組と年少組
一方、部屋で予選通過の結果を見ていた由春は勢いよく階段を降りてリビングに飛び込んだ。
「お母さん、僕、予選通過した!」
「えっ!凄いじゃない!」
「僕らのグループが、スターラビットの名前がある!しかも、公式動画サイトで僕らのダンス動画が流れているよ!」
「やったじゃない!夢に近づけたわね!今日はお祝いよ!」
自分のことのように涙を流し喜ぶ母親を見て由春はスマホを握り締めた。いつだって由春の一番の味方で由春を信じてくれている母親のためにこの夢は叶えたいと強く思えた。そのためにあの狭い世界を飛び出したのだ。
「お母さん、僕、頑張るね!」
笑顔でそう宣言した息子を見て、由春の母は嬉しそうに微笑み返した。
「ん?」
握り締めたスマホが震え、画面を見ると歩からの着信だった。
「もしもし?」
『もしもしっ、由君、結果見た?』
小さな声で囁くように話す歩に由春は首を傾げた。
「見たけど、どうしたの、そんなに声を潜めて」
『凄い注目されてて、今隠れてるの』
「あぁ、クラスメイトに質問大会にあっているのね」
『そんなとこっ。で、結果見たならわかると思うけど俺ら通過したんだよ!やばくない!?」
声を潜めながらも徐々にテンションが上がっていく様子がわかる歩に由春は口角を上げた。
「やばいよね!皆に早く会って喜びを分かち合いたいよ!」
『そうだよね!とりあえず僕はグループにメッセージ送るね!』
そんな宣言と共にスマホに鳴った通知を見て由春は急いで歩の作った波に乗った。
大貴は各方面からの視線に思わず読んでいた本で顔を隠した。大学という広い場所でも噂はすぐに広まるようだ。大貴がサイトで結果を見た時には既にスターラビットに大貴がいると気づいた学生は多く、大貴はコンテストの影響力の大きさをその身で感じることができた。予選通過を大きく喜びたいが如何せん注目されているため何も行動を起こすことができず、結局同じページが開きっぱなしの本を見つめて平常心を保っていた。
「ん?電話、周音じゃん」
周音から電話がかかってきて大貴は少し安心した。
『もしもし、大貴?』
「うん、どうしたの?」
『いや、大貴、大丈夫かなって』
「えっ?どういうこと?」
『歩と由が通過できた喜びをグループでスタンプとかで喜び合っていて、今、育達もやっているんだけど、大貴だけ反応ないから皆、心配し始めてて』
「あっ、そうだったの。ごめん、ちょっと意識飛ばしてた」
『えっ、飛ばしてた?』
「うん、何か凄く視線があって通過できた喜びより注目に慣れてないから困っちゃって」
『あー、なるほどね。まぁ、しょうがないよな。影響力凄いコンテストだし』
「だよね。じゃ、その連絡、じっくり見ようかな」
『かなり盛り上がっているよ。じゃあな」
電話が切れ、大貴はメッセージアプリを開いた。画面から伝わる喜びに大貴は今日初めて自然に微笑んだ。
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