7曲目 開始

 六時間後、休憩を挟みつつスターラビットはレッスンを無事終えていた。

「もう、動けないぃ」

 レッスン後、自販機の隣にあるベンチに座り込んだ蓮太郎に育はスポーツドリンクを渡した。

「今日めっちゃ動いたもんね」

「むしろ何でお前そんなにぴんぴんしてんの」

 蓮太郎の隣でジュースを流し込んでいる和哉は化け物かよと育を見た。

「いや、俺も疲れたよ。でも、それ以上に楽しすぎて」

「わかる!めっちゃ楽しかった!疲れたけど!」

 自販機で飲み物を選んでいた歩はうんうんと頷いた。

「メイクめっちゃ落ちたけど、やり切った感はある、かな」

「歌も歌いつつ、踊るんだから無理もないよな」

 蓮太郎以上にぐったりしている由春の背中を撫でながら周音は苦笑した。

「宿題も頑張らないとね」

 大貴は水を飲みながら微笑んだ。グループ名が決まり、スターラビットは自己紹介文を考えてくるよう、宿題を出されていた。

「そうだよ!自己紹介考えないと!」

「ダンス前にやるんだったよな、どんなのにしようかな」

 ワクワクした様子の育とは対照的に和哉は腕を組んで考えだした。

「ウサギってワード、共通で使いたくない?甘えん坊ウサギの何々です!みたいな」

「わぁ!アイドルっぽい!俺、それにしよう!」

 由春の提案に歩は拳をブンブン上下に振った。

「いいね。せっかくスターラビットって名前だし。考えとくよ」

「俺は無難にお兄さんウサギにしようかなぁ」

「ぼ、僕も考えとく」

 周音、大貴、蓮太郎も頷き、育は満面の笑みでスマホを取り出した。

「そうだ、記念写真撮っておこうよ!皆、入って入って」

「えぇー!盛れてないよぉ、僕」

「何言ってんの、レッスン頑張った顔は盛れてんの!」

 育はスマホのカメラを内カメラにした。カメラを構える育の肩に和哉、その後ろに控えめに年長者の大貴、周音が映り、蓮太郎を歩と由春が挟んで画角に入った。育はピース、和哉は頬を膨らませ、大貴と周音は親指を立て、首を傾げて微笑む蓮太郎を挟む二人は両頬に手を当てて小顔ポーズをした。こうして、スターラビット記念すべき一枚目の集合写真が育のスマホに保存された。



 オリジナルソングが発表され、ダンスレッスン、ボイストレーニングを重ねたメンバーは更に仲を深めていくようになっていた。ついには一連の流れを通して踊り、それを撮影してチェックする段階まで進み、多喜はスターラビットの成長の早さに驚いた。センターの歩の圧倒的な華のあるダンスと歌、由春の可愛らしい歌声と仕草、小柄な体型を活かしたダンスをする和哉、弱々しい表情や見た目に反してダイナミックなダンスをする蓮太郎、メンバーに合わせたハモリをしつつ、自分の見せ場はきちんとやる周音、一番端でも元気よく笑顔を絶やさずに踊る育と全体的に柔らかい雰囲気でもキレのいいダンスをする大貴に目が二つじゃ足りないとはこのことだと多喜は思った。

「もうほぼほぼ完成されているじゃん」

「いやもう、プロデューサー、俺ら頑張ってんのよ」

 多喜の呟きに育は頬に手を当てながら満面の笑みで頷いた。

「予選で送る動画はダンス動画だけどフォーメーションも綺麗だし、ダンスもズレがないね。流石、カレイさんだ」

「褒めたってなんもでないわよ、多幸さん!」

「生歌で踊ってもそんなに息がきれていないのは若い証拠だね、羨ましいよ」

 嬉しそうに笑うカレイの横で田口は満足そうに腕を組んだ。

「でも、まだまだ時間はあるわ。慢心しちゃダメよ。高みを目指すの」

「そうだね。もっと輝けるさ」

 カレイと田口はメンバー一人一人の良い点、欠点をまとめた紙を配り始めた。

「一人一人課題は違うわ。すぐに直せ!は無理な話だけど、意識すればまた変わるの。大事なのは意識の高さよ」

「意識するとしないではパフォーマンスにも、メンバーに与える影響も変わるからね。互いで高め合うためにも必要なんだよ」

 課題の書かれた紙を配られたメンバーの顔は真剣そのものだった。特に今回の曲でセンターを務める歩の表情は晴れなかった。

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