第18話 別れ
「じゃあ、今までお世話になりました」
「おう。お前もこれからはもっと後先考えてうまくやれよな」
「うん。さすがに前みたいに何も考えずに飛び出したりはしないよ」
12月24日秋奈がこの家を出ていく日だ。
家を出る日になっても何をしたいのかは教えてくれなかったけどそれはそれでいいかとも思った。
これから死んでいく俺がそれを聞いたところで意味のないことだ。
「じゃあまたね~」
「、、、ああ」
秋奈は笑顔で手を振りながら家を出て行った。
これで俺の目的はついに果たされる。
午前中は最後にうまいものでも食べよう。
そして、夜に死のう。
勿論死に方は考えてる。
首をスパッと切ってサヨナラだ。
痛そうだけど手軽だしね。
「こう考えてみれば秋奈との時間はすごく早かったな」
秋奈と会うまでは時間の流れを意識したことなんてほとんどなかったけど、秋奈といる時間は毎日が鮮やかだった。
それもついさっき終わってしまった。
これでやっと俺の人生にも幕を閉じることができる。
なにも良いことが無かった人生。
裏切られてばかりで誰も信用できなくなった人生。
死にたかったのにずっと生きてきた。
でも、そんな生にも今日終止符を打つことができる。
「ははっ、未練なんてないと思ってたんだけどな」
どうやら案外未練に似た感情を抱いていたらしい。
どうでもいいけど。
「何を食べようかな~」
ぱっと頭に浮かんだのは秋奈の料理だった。
けどそれは叶わない。
秋奈はもう行ってしまった。
「しょうがない。ピザでも食べるか」
前に頼んだデリバリーピザがおいしかったのが印象に残っていたからピザを注文した。
クリスマスイブということもあり大変急がしそうだった。
なんかごめんなさい。
「うん。うまいな」
届いたピザを一人で食べる。
やはりおいしかったけど何か物足りない。
一人で飯を食べるっていうのはやっぱり味気ない。
こう思うとやっぱり俺は秋奈に依存していたのかもしれない。
「ははっ。まさか成人したばっかりの奴にここまで救われてたなんてな」
秋奈が居なくなって初めて俺にとってどれだけあいつの存在が大きかったのかわかった。
失ってから初めて気が付くっていうのはよく聞く話だがこういう事だったのか。
「確かに遅すぎるな」
偉人の言葉は偉大だなと痛感しつつも俺は午前中を過ごした。
そうして気が付けばあと数分でクリスマスイブが終わる時間帯になっていた。
そんな中俺は包丁を首筋に当てていた。
周りを生をはぐくむ行いをしているだろう時間帯に俺は一人真逆の行為に身を投じようとしていた。
「ああ、やっと逝ける」
眼をつむって首筋に当てていた包丁を一気に引こうとする。
瞬間いきなり玄関の扉が開くのだった。
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