第5話 彼女がいない理由

「冬真さんって何者なの?だいぶ若く見えるのにこのマンション一括で買ってたの!?」


「別に普通の26歳男性だぞ?」


「にしてはお金を私に使い過ぎじゃない?」


「別にいいんだよ。言ったろ?他に使い道がないんだよ」


「むぅ~本当かな~」


 あれから部屋を見て大体どんな家具が欲しいかを聞いてからリビングに戻ってきていた。

 あまり時間もかからなかった。

 俺に遠慮しているのかとも思ったけど、どうやらそういうわけでもないらしい。

 これといった欲がないらしい。

 今までは何かを欲することもできない環境にいたことを考えるとうなずける。


「そろそろ腹減ったしピザでも頼むか」


「いいの!?」


「もちろん。好きなの頼んでいいぞ」


 そういって秋奈にピザのチラシを渡す。

 それを受け取って目をキラキラさせながら選んでいる姿は子供そのものだ。

 こんな些細なことも今までできていなかったのかと思うと少しの同情と多大な胸糞の悪さが胸を駆け巡る。


「そういえば、スマホって持ってるのか?」


「ううん?もってないけど」


「明日買いに行くか」


 今日は土曜日だから明日も休みだ。

 休みのうちにこいつの必要品は買いそろえておくべきだろう。


「そんなに買ってもらって本当にいいのかな、、」


「いいんだよ。俺も久しぶりに生きてて楽しいと思えてるからそのお礼とでも思ってくれ」


「そんな大げさだよ~」


 そういって秋奈は笑っているけど何一つ誇張していない。

 本当に9年ぶりに心の底から楽しいと感じている。

 何でなのかはわからない。

 単純に人と会話をしているというのはあるだろうけど。


「大げさじゃねえよ。それに月曜から俺は仕事があるからな。いつまでも秋奈と一緒にはいてやれない。だから連絡手段は必要だ。帰るにしてもせめて連絡は欲しいからな」


「そっか。じゃあお言葉に甘えて」


「あと、娯楽品でほしいものとかあったら言えよ。多分一日中暇になると思うから」


「じゃあ、本が欲しい!」


 本とはまた渋いところを攻めたな。

 今どきの若者ならゲームとかそこらへんだと思っていたんだが。


「わかった。明日一緒に見に行こう。注文は決まったか?」


「うん!え~とね~」


 それからはピザの注文を済ませて他愛のない話をしているとすぐにピザがとどいたため食べ始めることにした。


「「いただきます!」」


「ん~おいしい!人生で初めて食べたけどこんなにおいしいんだ!」


「俺も久しぶりに食べたな。なかなかうまい」


 今まで食にこだわりなんてなかったからコンビニで済ませてたけどなかなかにうまい。

 今度からもう少し食にも気を配ろうと思った。


「冬真さんは何でこんなにお金持ってるのに使わないのっていう質問はもうしたからしないけど彼女とかいないの?冬真さんって顔は整ってるし高身長だし引く手あまたじゃなかった?」


「そんなことないぞ。それに彼女なんかいたら俺はお前を拾ってない」


「それもそっか~」


 あはは~と秋奈は少し気まずそうに笑っていた。


「欲しいとか思わないの?」


「思わないな。俺はそれで昔痛い目に遭ったんだよ。だから彼女を作る気はないな」


「それって聞いてもいい話?」


「言わねぇよ。何の面白みもない。よくあるクソみたいな話だ」


「そうなんだ」


 少ししんみりとした気まずい空気が流れる。


「まあ、気にすんなよ。彼女なんかいなくても別にどうってことは無い。少なくともお前が自立できるまではしっかりと面倒を見てやるよ」


「うん。ありがと」


「ああ。今日はもう遅いから寝ろ。明日もまた出かけるからな」


「わかった。じゃあお休みなさい。冬真さん」


「ああ。お休み秋奈」


 そう挨拶をして秋奈は俺のベッドに向かった。


「俺も寝るか」


 久しぶりに休日に遊んだので少し疲れてしまった。

 まあ、この疲れ方は嫌な疲れ方じゃないという点が救いかな。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る