第12話 飲み

「誕生日おめでと」


「ありがと!冬真さん!」


 翌日の朝仕事に行く前に秋奈に祝いの言葉を伝える。


「これでお前も成人か。もう警察におびえなくて済むんだ!」


「まだ言ってるよ」


 呆れられたけど本心なんだから仕方ない。

 怖いものは怖いのだ。

 死ぬのは俺が望んでいることだからいいけど性犯罪者として捕まりつるし上げられるのは耐えられない。


「じゃあ、仕事行ってくるな。いつも通り何かあったら連絡してくれ」


「もうわかってるって。冬真さん過保護すぎだよ~」


「こんなもんだろ。じゃあ今度こそ行ってくる」


「行ってらっしゃい。頑張ってね」


 秋奈に見送られながら家をでる。

 少し前まではも言ってくれる人がいなかった。

 こういうのを言ってくれる人がいるってだけで幾分か気分がましになる。

 それだけで今日も頑張るかっていう気持ちになれるんだから不思議だ。


 ◇


「課長最近本当に元気そうですよね」


「そうか?俺としてはあんまり変わってない気がするんだけどな」


「変わってますよ!例えば前まで死んだ目で来ていたのに今は少しマシな目になってますし」


「俺ってそんなにひどい目をしてたのか?」


「自覚がないって重症ですね~」


 いつものように万は俺のことをからかってくる。

 ほんの少しだけいたずらっ子な笑みをうかべる万を見ながら俺は肩をすくめた。


「お前、わかってると思うけど俺上司な?」


「そんなの知ってますよ~」


 綺麗な白い長髪をなびかせながらてへっと右手で自分の頭をこつんと叩いた。


「どうだか。まあ、いいやとっとと仕事しろよ~」


「はい!あと、今日の帰りに飲みに行きませんか?」


「お前から誘ってくるなんて初めてじゃないか?」


 今までは会社の誰からも誘われたことなんてなかったし会社で今まで会話していたのは大体万だけだった。

 その万からもプライベートで何かに誘われるのはこれが初めてだった。


「だって、前までは課長が近づくなオーラ前回だったから誘いにくかったんですよ!でも、最近雰囲気が柔らかくなったので誘ってみよーかなと思いまして。ダメですか?」


「う~ん」


 家には秋奈がいるしな。

 でも、こうして万が誘ってきてくれたのを無下にするのはなんだか申し訳ない。

 秋奈に連絡を入れて飲みに行くか。


「わかった。お前から誘ってくれるなんて初めてだしな。飲みに行こうか」


「やった!約束ですよ?」


「もちろん。だから仕事頑張れよ」


「はい!今日はもうやる気満々ですよ!」


 万はガッツポーズをしてスキップしながら自分のデスクに戻っていった。

 そんなに喜ばれるとなんだかいい気分になる。


「忘れないうちに連絡しとかないとな」


 スマホを取り出して秋奈に今日は帰るのが遅くなることと夕飯はいらないということを簡潔に伝えた。


「これで良し。さすがに夕飯を作ってもらっていらないなんて言えないからな」


 報連相は大切だからしっかりとこなしてからスマホをポケットに戻した。



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