第3話 買い物へ

「ふぅ~さっぱりした」


 風呂から上がって一息つく。

 明日は休みだからこんな深夜まで起きていても何ら問題はない。

 明日からどうするかね。


「って、寝てるし」


 リビングに入るとそこにはテーブルの上にうつぶせになって寝ている秋奈がいた。

 どうやら相当疲れている様でぐっすり眠っていた。


「そういえばこいつの家がどこにあるのかは知らなかったな」


 移動費で所持金が消えたといっていたからかなりの距離を移動してきたのかもしれない。

 そりゃ疲れて当然か。


「どうしたもんかね。このままここで寝かせとくのも忍びないし。はぁしゃーない」


 ため息をついてから秋奈を持ち上げる。

 所謂お姫様抱っこという奴だ。


「こいつ軽すぎじゃないか?」


 身長はそれなりにあるし決してスタイルが悪いというわけではないと思う。

 でも、触ってみてわかった。

 やせすぎてる。

 普通の人間よりも肉が少ない。

 勿論贅肉なんかじゃなく必要な量の肉がこいつの体にはついていないように思えた。

 虐待か。

 くだらないことをしやがる。

 流石にイライラしてくる。

 虐待をするくらいなら生まなければいい。

 産むのならしっかりと責任をもって育てるべきだ。

 それができないのならそういった行為をするべきではない。


「こいつも苦労してたんだよな」


 俺には虐待された経験は無いからこいつが今までどんな気持ちを抱いていたかはわからない。

 それを理解しようとするのは傲慢だ。


「ま、ここにいる間くらいは笑える環境を整えよう」


 ベッドに寝かせながらそうつぶやく。


「おやすみ」


 そう残して部屋を後にする。

 彼女にベッドを譲ったため必然的に俺はソファーで寝る羽目になった。

 今度ベッド買いに行くか。

 密かにそう決意するのだった。


 ◇


「おっはよ~」


「ああ、おはよう」


 朝ハイテンションで秋奈が俺を起こしに来た。

 流石にソファーで寝ていたから全身が痛い。


「もしかして私のこと運んでくれた感じ?」


「まあな。あんな体制で寝てたら体痛めるぞ?」


「ごめんなさい。疲れて寝落ちしちゃった」


「謝ることじゃないけどな。それよりも今日暇か?」


「今日っていうかずっと暇だけど。今のところホームレスだし」


 自嘲気味に秋奈は笑っていた。

 昨日から思ったのだがこいつは大体笑顔しか顔に出さない。

 たまに見せる作ったような笑顔が痛々しいのだ。


「じゃあ、買いもの行くからついてこい」


「え?良いけど何買うの?」


「秋奈の生活必需品だよ」


「え!?私お金持ってないよ?」


「俺が出す。子供はそんなこと気にすんな」


「でも、、、」


「いいから。とりあえず準備していくぞ。言っとくが遠慮なんてすんなよ?」


「わかった、ありがとう」


 こうでも言わないとこいつは何も買わないような気がしたので一応くぎを刺しておく。


 ◇


「必要なものって今のところなんだ?服とか歯ブラシとか下着とかは絶対いるとして他に何か欲しいものとかあるのか?」


「いやいや、そこまで出してもらってもいいの?私赤の他人だよ?」


「別にいいぞ。金なんてあっても使い道がないからな」


 実際に俺が使う金なんて食費とか光熱費とかそれくらいだ。

 これといった趣味もないしマンションの一室に関しては一括で購入してるから月に10万も減らない。

 だから金に関しては有り余ってる。


「趣味とかないの?」


「ないな。もっと言うと遊びに行くような友達も彼女もいない」


「なんか、ごめん」


「あやまんな。悲しくなるだろ。ってなわけで金の心配はいらん」


「そうなんだ。何から何までありがとね」


「気にすんなって。乗り掛かった舟だ。他にも欲しいものとかあれば言えよ」


「うん」


 とりあえずは必要なものを見ていく。

 最初は秋奈の私服だ。

 いくら何でも制服姿でいつまでも隣にいられたら通報されてしまう。

 だから一番に向かった。


「どうかな?似合ってる?」


「いいんじゃないか?」


 試着室から出てきた秋奈はくるりと回転しながらそういった。

 似合ってると思うけど正直に言うのはなんだか恥ずかしかったので不器用なことを言ってしまう。


「む~そんな答えが欲しかったわけじゃないんだけど」


「別に俺の答えなんてどうだっていいだろ?気に入ったなら買えよ」


「うん。そうしようかな。いつか絶対返すから」


「気にしなくていいっていってるだろ?」


「そんなわけにはいかないよ」


「はいはい。いつかな」


 俺としては使い道のない金を使ってもらうだけなので返してもらう必要なんて全然ない。


「とりあえず数着買っとけよ。金のことは本当に気にしなくていいから」


「わかった。何から何まで本当にありがとうね。冬真さん」


「ああ。どういたしまして」


 今まで見た中で一番綺麗な笑顔で秋奈は俺を言ってきた。

 初めて見る純粋な笑顔を見れて俺は少しホッとした。

 今までの秋奈はなんだか何かを偽っているような感じだったけど今の笑顔にはそれが感じられなかった。


「とりあえず、制服からは着替えてくれ。通報されちゃうから」


「わかった~」


 秋奈は服を数着かごに入れて俺のほうに持ってきた。

 どうやらこれで決まりらしい。

 かごを受け取り会計を済ませる。

 店員さんに断って試着室を使わせてもらい秋奈が今買った服の一着に着替えた。


「服ありがとね」


「だから、本当に気にするな。あとそれよこせ」


「あっ。ありがと」


 秋奈から服が入った袋を取る。

 荷物持ち位しなければ。


「で、次は何を見に行く?」


「うん。下着見に行ってもいい?」


「了解だ。でも、俺が下着売り場に行くのはちょっとあれだから店の前で待ってる。これで買ってきてくれ」


 財布から3万だして秋奈に渡す。


「え!?こんなに要らないよ?」


「良いからもってけ。ここで待ってるから何かあったら呼んでくれ」


「わかった。ありがとう」


 そういって下着売り場に秋奈は消えていった。

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