第20話 いまだ忘れがたい過去

「最初に死にたいって思ったのは高校生のころだった。当時俺には彼女がいてそれはもう幸せだったよ」


 俺は少し昔を思い出しながら話し出す。

 思い出したくはない記憶。

 できることなら永遠に思い出したくなかった記憶だ。


「でもね、幸せっていうのはそんなに長く続かなくてね。彼女と付き合い始めて二年目の高校三年の夏事件は起きたんだ」


「事件?」


「ああ。俺にとっては人生の転換点ともいえる事件だったよ」


「それは聞いてもいいのかな?」


 秋奈が申し訳なさそうにそう聞いてくる。

 全くこの子は気が使えるのか使えないのかわからないな。

 出会ったときから秋奈は不器用な子だと思った。

 でも、その不器用さは可愛らしいとも思った。


「まあね。そもそも聞かせたくない話だったら話さないさ」


「それもそっか」


「ああ。続きだが俺には親友がいたんだ。小学生のころからずっと一緒に過ごしていてそれはもう仲が良かったと今でも思っている」


 あいつは、太陽とは仲がいいと思っていた。

 今思い返してみてもあいつは親友と呼んで問題ないと思うくらいには仲がいいと思っていた。


「でも、あいつは俺の彼女を好きになってしまったらしい。気づいたときには浮気してたよ。俺の親友と俺の彼女は」


 最初は違和感しか感じていなかった。

 それが確信に変わったのはいつも一緒に帰っていた彼女が一緒に帰らなくなったことだった。

 最初は用事があるのかなと思って太陽と一緒に帰ろうと思って誘ったんだけどそれも断られた。

 それが毎日になったころさすがにおかしいと思って後をつけてみたら案の定だった。


「気が付けば彼女と親友は楽しそうに二人きりで手をつないで歩いてたよ。それを見たときにはさすがに心に来たけど彼女とあいつが幸せならそれでもいいと思った」


 本当にそう思っていた。


「でもな、翌日に俺は彼女に学校の空き教室に呼び出された。その時は別れ話でもされるんじゃないかって思ってた」


「別れ話じゃなかったの?」


 秋奈は驚き半分憐憫半分といった感じだった。


「ああ違った。空き教室に行ってすぐに俺は彼女に抱き着かれた。そのまま首を引っ張られて俺が彼女を押し倒すような形になった。その瞬間彼女は叫んだんだ。襲われる~ってね」


 今思い返しても悲しくなってくる。


「それって、、、」


「ああ。そのあとは親友と先生が駆けつけてきたよ。次の日から俺は見事に性犯罪者扱いされてのちの学校生活を過ごすことになったよ」


 全てが終わった後俺ははめられたって悟った。

 別にあんなことしなくても素直に話してくれたら俺は素直に二人を祝福するつもりだったのに。

 裏切られた。


「そんで両親はその数か月後に死んだ。それからは誰も信用できずに孤独な人生を過ごしてたんだ。お前にあったのはもう死のうとしてた時だった。お前がやりたいことを見つけてこの家を出て言ったら死ぬつもりでいた。これで全部だ」


「じゃあ、前に私が冬真さんに抱き着いたときに反射的に拒絶したのって、」


「ああ。トラウマみたいなもんだ。誰かにいきなり抱き着かれるとあの時のことを思い出して反射的に拒絶しちゃうんだ」


 あの時は本当に申し訳ないと思っている。

 でも、いまだにあのトラウマは頭から離れてくそうにない。


「ねえ、冬真さん」


「なんだ?」


「抱きしめてもいい?」


「いきなりなんでだよ」


「だって冬真さんすごく辛そうな顔してるから」


「そうか?」


 自分では案外自分の表情はわからないようでそんな自覚は全くなかった。


「うん。すごく泣きそうな顔してる。別に泣いてもいいんだよ?無理して我慢するのは良くないよ」


 秋奈は俺の頭を両手で抱きしめながらそういう。

 全くこんな子供に諭されるなんてまだまだ俺も子供だと思う。


「別に泣かねえよ。それよりお前のやりたい事って何なんだよ」


 少し涙が出そうだったけどこいつも前でそんな情けない姿をさらすわけにはいかないので出そうになった涙を無理やり引っ込める。


「え~まさかこの流れで泣かないことってあるんだ」


 秋奈は少し引き気味に俺のことを見つめてきた。


「流れもくそもあるかよ。で、教えてくれよ」


「はぁ。まあ約束だしね。いいよ教えてあげる。私のやりたいことはね、、、」

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