第9話 優秀な部下はつかみどころがない
「おはよう」
朝起きてリビングに出るとそこにはすでにおいしそうな朝食が並んでいた。
「あ!おはよう冬真さん。朝ごはん準備しといたよ!」
「ありがとう。秋奈ってほんとにすごいな」
「これくらい褒められるほどのものじゃないと思うんだけど」
「いいや、そんなことは無いぞ?本当にすごいと思う。じゃあ、いただきます!」
俺は手を合わせて久しぶりの朝食を食べる。
今まで朝はずっと抜いていたから朝から何かを食べるのは久しぶりな気がする。
「うまい!朝からこんなにおいしいものを食べれるなんて幸せだ~」
「ふふっ、冬真さんって案外子供っぽいんだね?」
「そんなことないぞ。俺はもともとこんな感じなんだよ」
「そうなんだ?もっと大人っぽい人だと思ってたよ」
「それは秋奈がそういう風に見てただけじゃないか?」
「そうなのかな~まあいいや」
「なんだよそれ」
話しながらも食べる手は止めない。
だっておいしいんだもの。
「ご馳走様。本当においしかった」
「お粗末様でした。冬真さんはもう仕事に行くの?」
「まあな。もうそろそろ行かないと遅刻しちゃうからな」
「そっか。何時くらいに帰ってくるの?」
「八時くらいじゃないかな?まあ、何かあればスマホに連絡を飛ばしてくれ。すぐに駆け付ける」
「大げさだよ~でもわかった。何かあったら連絡するね」
スマホを持ちながら秋奈はにこっと微笑んだ。
少しづつこういう自然な笑顔が増えて行けばいいと思った。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃいのキスはいる?」
「お前はどこの新妻だ」
「えへへ~」
軽く秋奈に突っ込みを入れて俺は仕事に向かった。
◇
「課長、なんかいい事でもあったんですか?」
「ん?どうしてそう思うんだ?」
会社に行ってそうそう俺は部下の
「いや、なんだかいつもよりも顔色がいいなって思いまして」
「違いましたか?」
「いや、まあ当たってはいるな。今日は久しぶりに朝食を食べてきたから幾分か体の調子がいい」
「そうだったんですね!ダメですよ?朝はしっかり食べないと」
「はいはい。わかってるよ」
あんまり部下に説教は喰らいたくはないが正論過ぎるので反論ができない。
全く、優秀な部下を持つのは良いことでもある反面少し大変だ。
「でも珍しいですね~あの課長がぶっちょう面以外で会社にいるなんて」
「お前、俺のことをそんな風に見てたのか」
「あはは~嫌だな~物の例えじゃないですか~」
愛想笑いをうかべて万はどこかに行ってしまう。
全くこいつは新人のころから少し生意気なところは変わらないようだな。
変わらない部下に少しため息をつきながらも俺は仕事を進めていく。
いつもと何ら変わりのない日常だ。
退屈で平凡で何一つ真新しいこともない。
決められた仕事を決められた時間淡々とこなしていくだけ。
「はぁ」
「どうしたんですか?ため息なんかついて。幸せが逃げますよ?」
「万か。別にいいだろため息位」
「まあ、そうですけど。悩み事ですか?」
「そんなところだ。会社辞めようかな~って思っててな」
シンプルに昨日考えたことを口にしてみる。
本気でやめるかどうかは置いておいてこいつなら面白いリアクションをしてくてそうだ。
「へぇ~会社辞めるんですか。ってはぁ!?何言っちゃってるんですか!?」
「いや、なにってシンプルに今の悩み事だが?」
「はぁ!?あなた課長ですよね?しかも弱冠26歳で課長になったエリートですよ!?なのにやめるんですか!?なんで!?」
思った以上に焦りながら万は俺に詰め寄ってくる。
というか、俺は会社でそんな評価を受けていたのか。
「まあ、ほとんど嘘なんだけどな。少しそんな風なことを考えてただけだ」
「なんだ。びっくりしましたよ。課長がいなくなったらどうしたらいいんですか?全く」
「すまんすまん。でも、俺が居なくても万が居ればこの部署は回るだろうけどな」
万は俺が面倒を見ていた社員だ。
歳は二つ下の24歳。
二年前はまだ課長じゃなかったから俺が面倒を見ていたこともあってかなり俺になついてくれているような気がする。
「そんな、言い過ぎですよ。でも悪い気はしませんね」
「だろ?まあサボらずに頑張ってくれ」
「はい!誠心誠意頑張ります!」
万はガットポーズをして仕事に戻っていった。
「あ!先輩一ついいですか?」
「ん?なんだ?」
仕事に戻りそうだった万は振り返って声をかけてきた。
「課長はもう少し周りからどう見られているのかを気にしたほうがいいですよ」
「ん?どういうことだ?」
「私が言いたかったのはこれだけです。では、失礼します」
「あ、おい」
それだけ言うと万はそそくさと仕事に戻っていった。
全く新人時代からあいつは人の話は聞かないわたまに意味深な発言をするわでつかみどころのない奴だった。
「まあいいか。俺もとっとと仕事に戻るか」
いつも通り仕事をこなしていく。
お昼に弁当を食べていたら万にとても驚かれた。
そして、とてもおいしかったので帰りにケーキでも買って帰ってやろうと密かに決意した。
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