死にたがり屋と女子高生

夜空 叶ト

第1話 死のうとしたら女子高生を拾った

「矛盾」


 矛盾とは二つの物事が食い違っていて、つじつまが合わないことを表す言葉なのは誰もが知っていることだと思う。

 だって、義務教育でやっていると思うし。

 例えば、彼女が欲しいとおもっているのに女性と関わるのが怖かったり、もっと極端な例であれば好きなのに嫌い。

 みたいな事象を人は矛盾ということがよくあると思う。


「確かに矛盾してるよな」


 かくいう俺も矛盾を心に抱える一人だ。

 俺は友達というものを作るのが心底怖くて仕方がない。

 信頼して信用してそのあとに裏切られるのが心底怖い。

 友達なんて言う関係性はひどく曖昧でもろくて不確定だ。

 だって、俺が誰かを友達だと思っていても相手はそうは思っていないなんてことはよくあると思う。

 なのに、俺は孤独が嫌いだ。


「孤独は人を殺せるって聞いたけどそれは本当なのかもな」


 前に何かの本で見たけど人間は孤独に耐えられるようにできていないらしい。

 ずっと一人でいると生きていられない。

 頭がおかしくなってしまうらしい。


「じゃあ、俺も死ぬのかな?」


 孤独な現状。

 周りに人間はいないし家族もいない。

 俺が18の時に死んだ。

 そこからはずっと一人で生きてきた。

 ある程度仕事はしているし人との交流はある。


「でも、充実はしていない」


 プライベートで何かをすることもないし交流といっても業務連絡程度だ。

 俺だってそれじゃダメだってわかっている。

 でも、どうしてもだめだった。

 が俺の邪魔をするんだ。


「人と関わるのが怖い。裏切られるのが怖い。でも、孤独も怖い」


 これが矛盾。

 度し難い矛盾だ。

 誰かと関わりたい。

 友達を作って遊びたいし恋人も欲しい。

 でも、それをするには人と関わらなければならない。

 それができない。


「いっそ死んでしまおうか」


 軽くそう考える。

 でも、死にたいというわけではない。

 どちらかというと生きていたくないという表現が正しいのかもしれない。

 ありていに言えば疲れた。


「はあ、全く本当に度し難い」


 今まで生きてきて26年

 裏切られてから9年


「あまりいい人生ではなかったな。」


 ベンチに座り込みながら空を見上げる。

 そこには綺麗な月が輝いていた。

 あまりにも美しすぎて自分の悩みがちっぽけに思えてくる。

 実際俺なんかちっぽけなんだろうけどさ。


「こんなところで何してるんですか~?」


 いきなり声をかけられた。

 深夜に公園のベンチに座り込んでるわけだから声をかけられるのはおかしなことじゃなかった。

 でも、俺が何に驚いたかというと声をかけてきたのが警察官などではなく制服を来た女子高生だったという点だ。


「いやいや、君のほうこそこんな時間に何やってるの?高校生?」


「え、なんで私が高校生ってこと知ってるんですか?」


「制服着てるからでしょ」


 もしこの服装で高校生じゃなかったらただのコスプレして深夜徘徊をしているやばい奴である。


「あ!そうだった。今の私制服着てるんだった」


「で、何してんのさ。制服着た女子高生がこんな深夜に公園でさ」


 俺もあまり人のことを言えたことではないけど未成年と成人では意味合いが変わってくる。

 下手しなくても補導されるだろうし、変なおっさんに連れて行かれる可能性すらある。正直かなり危ない。


「別になんだっていいでしょ~それよりおじさんこそ死んだ魚の目で空なんて見あげちゃって一体どうしたの~」


「お、おじ!?」


 おいおい俺はまだ26歳のお兄さんだろ?

 いくら何でもおじさんは傷つく。


「はぁ、なんだっていいだろ。社会人には深夜の公園で月見ながら黄昏たくなる時があるんだよ。しらんけど」


「いや、知らないの?」


「俺は自分以外でこんなことをしてる社会人を今まで見たことが無い」


「じゃあ、それ社会人っていう括り間違ってない?」


「うるさい。それより早く家に帰れ。もう女子高生が出歩いてていい時間じゃないんだよ」


「、、、家には帰りたくない」


 目の前の女子高生は顔を伏せながらそんなことを言った。

 なるほど訳ありか。

 な~んかめんどくさそうなことになりそうだな。

 うん。帰ろう。

 黄昏てる場合じゃないわ。

 死ぬ云々は置いといて今は一刻も早くにこのめんどくさそうな女子高生から離れようそうしよう。


「おじさん。なんでいきなり帰ろうとしてるのかな?」


「いや~そろそろ帰ろっかな~って。もう夜遅いしさ」


 できるだけ笑顔を装ったけど顔が少し引きつってしまう。


「ちょっと待ちなさいよ。まさか、こんなに可愛い女子高生を置いて帰ろうっていうの!?」


「自意識過剰なのは大変結構だが俺を巻き込まないでくれ。俺はこの年で性犯罪者扱いされたくない!」


 こんなところ他人に見られたら即通報案件だ。

 それだけは嫌だ。

 はっきり言って無理!


「どうせ、このあと俺の家に泊めろとか言い出すんだろ!?嫌だね。そういうのが許されていいのは創作の世界だけなの!現実はそんなにも甘くないの!それすると俺は警察と仲良く牢屋行きなの!」


「なんでわかったの!?」


「そんで図星かよ!?」


 まさか、本当にそんなことを言おうとしていたなんて警戒心が無さすぎる。

 いつか痛い目見るんだろうけど俺には関係ない。

 それもまた人生経験だ。

 諦めてくれ。


「ねぇ~お願い!このままじゃ私野宿なの!それは嫌なの!」


「知るか!お前は野宿するだけで済むけど俺がお前を家に入れたら逮捕されるの!割に合わないんだよ!」


「そんなこと言わないで!大丈夫!大丈夫だから!」


「大丈夫な根拠はどこにあるんだよ!不確定すぎるしリスクデカすぎだわ!」


「だって私、虐待されてるし?」


 いきなりさっきと同じテンションでえぐいカミングアウトが飛んできた。


「ん???」


「だから虐待されてたの!両親から。だから逃げてきた。そんな人たちが捜索願とか出すと思う?出しても虐待のことが露見して面倒ごとになるのは確実だろうから通報なんてしてこないよ!」


「めっちゃ的確な根拠じゃん」


 確かにそんな親なら絶対に捜索願などは出さないだろう。

 一番やばいのはここにいることが警察に知られて親を呼ばれて連れ戻されることなのかもしれない。

 でも、正直俺とこの子には何の接点もないし思い入れもない。

 俺がこの子を助けるメリットを見いだせない。


「お前今いくつだよ」


「今年で18歳」


「学校はどうするんだ?あと半年くらいあるだろう?」


 今は秋だから卒業までもう少しあるはず。


「もうやめてきたよ。だってそうしないと逃げられないから」


「考えなしにもほどがあるだろ」


「もちろん身分証とかは全部持ってきたよ。まあ、移動費で所持金がほとんどなくなったけど」


 どうやら、結構な距離を移動してきたらしい。

 まあ、そうするなら制服なんて着てるなよって思うけど。


「はぁ、もうわかったよ。とりあえず今晩は泊めてやる、そこからお前自身の方針を決めればいい」


「良いの?あんなに否定してたのに」


「まあ、な」


 こいつの顔見てると昔の俺を見てるみたいで助けてやりたくなる。

 裏切られまくって死のうと考えてたんだ。

 最悪捕まりそうになったらその時に死ねばいい。

 こいつを家に入れて裏切られるならもうそれはそれでその時に死ねばいい。

 それまではこいつの面倒でも見るかな。




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