第23話 秋奈の過去

「冬真さんは私たちが最初にあった日のことを覚えてる?」


「あんな出来事忘れられるわけないだろ?」


 今までそれなりにいろいろな出来事を経験してきたけどあの衝撃を超えるような経験を今後するとは思えないほどには衝撃的だった。


「それもそっか。私もよく覚えてるよ。もしかしたら冬真さんに酷いことされるかもって覚悟してたからさ」


「なんだよそれ」


「私みたいな女子高生が男の人の家に泊めてもらうにはそういう事を覚悟しないといけないから」


「なんでそこまでして」


「だって、私はあそこにいたらおかしくなっちゃうから」


 秋奈は服の裾をぎゅっと握りしめて語りだした。

 俯いているため表情はうかがえないけど声音から緊張しているのが分かる。


「あそこ?」


「うん。私の実家だよ。両親に虐待されてたの。それは言ったよね?」


「ああ。最初らへんに聞いたな」


 あの時すごく不快な気持ちになったのを覚えている。

 子供を産むのならやはり最低限やることはやらないといけないとおもう。

 それができないならやはり産むべきではないと今でも思う。


「でも、私はずっと耐えてたの。だってあそこにいないと私は生活ができないからね。それに暴力は振るわれてたけど最低限生きることに必要なものはもらってたからね」


「じゃあ、なんで突然抜け出してきたんだ?」


 秋奈の言うことが本当ならなんでこいつはわざわざ家でなんてしてきたんだ?

 10年以上耐えれたのならなんで突然抜けだしたのだろう?

 俺がそんな疑問を抱いているとすぐに秋奈から答えが提示された。


「私が18になったら風俗店に私を売り払おうとしてたの。だから逃げ出してきたの」


「そうなのか」


 それは確かに逃げ出すしか選択肢が無かったのかもしれない。

 まあ、無計画すぎるというのも否めないが。


「うん。でも、逃げ出したおかげで私は冬真さんに出会えたわけだから感謝かな?」


「絶対感謝ではないだろ」


 あっけらかんという秋奈に思わず突っ込みを入れる。

 そこに感謝をすることは絶対にない。

 虐待なんてどんな理由があっても許されることではないしましてや人身売買なんて馬鹿げている。


「あはは~だよね。でも、冬真さんと出会えてうれしかったっていうのは本当だよ?」


「はいはい」


 綺麗な翡翠色の瞳に真っすぐ見つめられながらそう言われて恥ずかしくなって目をそらしてしまう。


「ふふっ。やっぱり冬真さんって可愛い」


 そこをすかさずいじってくる秋奈のこめかみを両手でぐりぐりしてやろうかと思ったが住んでのところで踏みとどまった。


「まあ、俺も秋奈と会えてよかったって思ってるけどな」


「え!?もしかして愛の告白!?もちろんおっけーだよ!」


「まてまて早まるな。決して愛の告白なんかじゃないぞ?これは自分の気持ちを素直に伝えただけであって」


「冬真さんってツンデレだよね」


 にやにやしながら秋奈は俺の頭を撫でてくる。

 恥かしくて極まりなかったけど嫌ではなかったからそのままにする。


「はいはい。まあ、なんだ。お前も大変だったんだな」


 俺は立ち上がって逆に秋奈の頭を撫でる。

 しっかり手入れされているのかサラサラした髪を丁寧に撫でる。

 いつも元気で能天気な奴だと思っていたけどこいつもきっと年齢にそぐわない苦労をしてきたんだと思う。

 それをねぎらうように丁寧に秋奈の頭を撫でる。


「なんでいきなり撫でてくるの?」


「さあな。俺もわからん」


「なにそれ~でも嬉しい!」


「ならよかった」


 少し頬を赤らめながら秋奈は嬉しそうにはにかんでいた。

 それを見て俺も心が温かくなるのだった。

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