第19話 精神障碍者の深夜俳諧。

深夜の今、僕は、街を散歩しに行く。月は出ていなくて空はどんよりと雲が垂れ込めている。南側に精神病院が聳えている。窓の明かりが点々としている。自販機で、ホットコーヒーを買った。また、無駄な、出費だ。悪徳に促されて、夜道を歩く。街灯が道を静かに照らす。その下を僕は歩く。54歳にもなった独身の精神障碍者の僕が、悪徳に背中を押されて夜道を進む。墓を曲がり、大道路に出る。黒いスエットを着た男性がライトを持って一人ジョギングしていく。ライトをつけた車やトラックが僕の脇を通過していく。黒と白の柄の猫が、道路を渡っていった。深緑の植え込みのある立派な夜の屋敷が並ぶ。みんな、どの家も眠っている。昼間の疲れを癒すために、どの家も静かに眠っている。みんなを起こしてはまずいなと思う。信号機が点滅している。僕は、横断歩道を渡る。誰もいない。きっと今、精神障碍者の僕が歩いていく様を、監視カメラがとらえているはずだ。車が脇を通過する。夜風が生ぬるい。遠くに深夜のコンビニの看板が光っている。お客さんはいるだろうか。こんな時間に働いているコンビニの店員さんがいるだろう。頑張って下さいと思う。僕は道端にしゃがみ込んだ。先ほど買ったホットコーヒー缶をポケットから取り出して飲む。暖かい液体がのどを潤す。車が通過する。無関心である。トシキマイノリティーライターは今、深夜、街で、こんなことをしている。最低だ。嘔吐しそうになる。痰を吐いた。最低のおやじだ。全員に嫌われる僕だ。朝になって、いつものように、障碍者の作業所に、送迎バスで行っても、障碍者の仲間からも外されている部外者の僕だ。誰からも嫌われ、精神障碍者の仲間から嫌われ、女の子からも嫌われ、独身の孤独の54歳のおじさんの僕は、何をやっているのだろう。生まれてこなければよかったと思う。勝手に思う。自分勝手だ。おしっこをしたくなった。そっと陰に隠れて放尿する。これは嫌われるわ。こんなことをしている。ズボンのチャクをあげて、歩き出す。監視カメラがとらえているだろう。地獄だ。地獄の街だ。僕が死んでも無関心だ。ゴミのようにかたずけておしまいだ。帰ろう。僕は引き返す。グループホームに引き返す。施設の喫煙所のベンチに座る。グループホームの玄関からH君が出てくる。

「コンビニに行ったのかい?」

「いや、ちょっと散歩。」

「今日、作業所に行くかい?」

「もちろん。でも、僕は、全員に嫌われているけれど。作業所の管理者に作品を見せたら『あなた、最低。』と言われた。煙草喘息で入院して、退院して作業所に復帰しても、誰も僕が入院していたことを知らないで、誰も僕の心配をしていなかった。作業所は、誰かが脱落しても、誰も無関心だ。全員、自分の事しか考えない。僕が咳をすると嫌悪の視線を僕に投げかける。この前、管理者がみんなの前で、『みなさん、トシキマイノリティーライターのように、作業の途中でタバコを吸いに行くのはやめましょうね。』と言った。僕みたいな孤独者も痛いよ。今日も嫌われに行くのか~。休んでも誰も心配しないし。僕はいなくてもいいのかな。」

「そんなことを言うなよ。作業所に、行けば時給100円の価値がある。こんな僕でも生きてもいい意味がある。精神障碍者の価値だ。こんなもんだ。いいじゃんか。」

H君と僕はタバコを吸う。僕らは、こんなところに生きている。これが、精神障碍者のグループホームの喫煙所だ。周りが明るくなってきた。長い夜が明けた。スズメが、チュンチョン鳴いている。今日は、新聞の朝刊は休みである。朝日が昇る。

結局、眠る時間はなかった。街が起きだす。グループホームに世話人さんが来るまで、わずかでも横になろう。パソコンを落とす。

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