第20話 施設は変った。
朝、僕は、施設のベンチで、新聞を広げると、なんと、
『ノーベル平和賞に日本の核兵器反対団体受賞。」
いきなり一面トップにあった。50年に及ぶ活動が報われたとあった。やったー!すごい!やっとだ!やっと、世界が認めた!僕は、涙が出てきた。報われた喜びを、僕はよく知っているからだ。苦しい、長い、暗い、地道な、努力の50年間だったに違いない。そう喜んでいると、向かいの、グループホームから、意義悪ばあさんが出てきた。ヤバい。何でこんな時に。僕は、無理をして笑顔を作り、
「おはようございます。」
というと、ばあさんは、無視をして、ベンチに座りタバコを吸った。僕は、新聞を広げて、言った。
「おばあさん、ノーベル賞に、日本人が選ばれたよ。」
「そんなこと、無関心。どうでもいいわ。」
おばあさんは、タバコをぷかぷか吸っている。すごいばあさんだ。こんなにも根性が座っている。わたくしの方が、ノーベル賞よりもすごいと思っているのだろうか。単なる意地悪なだけだろうか。僕の事なんかどうでもいいと思っているのだろうか。僕は、頭がぐるぐる回り始めた。何が気に入らないのだろうか。
去年、親友Aさんが、すごく、僕に腹を立てて、
「お前なんか忘れてやる。会っても、挨拶もするな!」
と言ってラインをブロックされた。後日、彼に会ったときも無視された。
最近、世話人さんが、ひそひそと、固まって話をしている。
「もう、あなたの作品は、読みません。」
と、世話人のKさんにはっきり言われた。
先日は、作業所で、スタッフ達の態度が冷たい。別に、僕は、スターになりたいわけではない。真面目に生きたいだけである。書いて、読みたいだけである。
僕の事よりも、施設で、何かあるのだろうか。なんか、不穏な空気である。スタッフ達も、世話人さんたちも、やけに、忙しそうである。メンバーたちも、以前のように、明るくない。
グループホームのマブダチのHくんとは、もう、一緒に、夜にキッチンで、音楽を聴かなくなった。5年も毎晩続いた夜会であった。Hくんとは、夜通し、朝まで、コーヒーを飲みながら、パソコンで音楽を聴いた楽しい仲だった。よく、コンビニにも一緒に行った。今は、なんか、僕にはかまってられないそぶりである。
施設では、ここスタッフが、3人辞めて、理事長は、会議をしまくっている。僕は、以前のように、あまり、理事長に、作品をもっていかなくなった。昨年までは、ひと月に50作品位、詩を書いて、提出していたのだけども。
若手のスタッフY君は、僕に、言うようになった。作業所でも、雰囲気が違う。以前は、明るかったのに、今は暗い。14年もいる施設である。この施設は変わった。
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