第21話 夜会
5年間に及んだ、グループホームのキッチンの「夜会」について書く。全員、精神障碍者で、1人知的障害者のM君がいた。夜のキッチンのテーブルを囲んで、Hくんは、パソコンでJ-popをかけて、Kさんは、携帯電話でオセロゲームをして、Mくんは、眠っている。僕は、何かをすると、なぜかみんな不機嫌になるので、ただ、みんなに従って、コーヒーを飲みながら、ただそこに居た。みんな自分の話ばかりする。僕はよく聞いた。僕はみんなの犠牲者になっていた。こんなことを5年間続けていた。みんな、楽しそうであるが、僕は、それほど、楽しくない。Hくんは、よく腹をすかした。僕は、買ってあるお餅を安く売ったり、レトルトカレーを提供した。でも、僕は、音楽が大好きなので、H君の好きな曲をただ聞いていた。僕は、音楽が救いだった。Hくんは、J-popの中でも、「yoasobi」が気に入いっていた。僕は知ることができた。他に、「聖飢魔Ⅱ」や「HIDE]や「サザンオールスターズ」や「BOWWY」等々、80年代、90年代の曲をたくさんH君はかけた。本当は、僕は、洋楽が好きだった。しかし、ここでJ-popの良さが分かった。すごいじゃないか。H君に感謝している。Hくんは、よく煙草を、吸いに行く。僕も後に続いた。なぜか、みんな、僕の話は、全く聞こうとしない。僕は、コーヒーを飲みながら、黙って、みんなが好きなことをしている姿を見ていた。「僕って、なんだろう?」そんな疑問がよくわいた。ただいるだけでいい。何もしないで。みんなの、人間の業を感じてきた。夜中の2時頃のなると、「夜会」は終了する。それから、みんな、眠って、次の日は、朝はみんな、ちゃんと起きて、作業所に、行った。そんなことが、5年間、毎晩、続いた。世話人さんには、ばれていて、一応、禁止されていたが、守らなかった。ここに、グループホームに住む悲しみがあった。こんなことをしなくては、精神障碍者の悲しみの人生を楽しめなかった。あまりにも、みじめで、やるせない、人生だった。たまに、外部の友達に電話をかけて、車で迎えに来てもらって、みんなで、深夜ドライブに行った。こんなことが、実は、幸せだったのである。ささやかな幸せだったと思う。一般人は、立派な家庭を築いている。苦労して家庭を築いたのだろう。僕らにはなんにもない。精神病院の閉鎖病棟を、やっと、退院して来て、グループホームに住んでいる。みんな、閉鎖病棟の苦しみを知らない。僕らは、ただ生きて、一般人の見えないところで、死んでゆく。何のために生まれてきたのだろう。夜会は、もうないのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます