第18話 絵里の春休み⑥
「おっ、二人から返信が帰ってきてる」
送信してから二時間程して、返信が帰ってきた。
返信が遅いのと約束時間を守らないスケーターあるあるだ。あたしも基本ルーズなので反応はいくら遅くても構わなかった。ただ、今回の映像はかなりの自信があったので早く感想を聞きたかった。
捻くれ者の奴らでもスケボーの前には素直な少年だ。褒めてもらいたくて送った動画は期待通り好評だった。
それから、二人のロッカーから食料を貰っていったことも報告する。
『別にいいよ』
いかにもハルらしい淡白な返事だ。
『英雄のパスワードは4545だった、マジできもい』
『続きは072にしたかったんだろうね』
『やっぱりそう思う?』
ハルも同じ考えで、笑えた。同じくして英雄からの返信も帰ってきた。
『すげぇ、よくわかったな! そいつは俺のお気に入りだ、味わって食ってくれ!』
中学生みたいなパスワードに恥じる様子の感じない返信だ。
『お前のパスワード、マジできもいから変えた方がいいよ』
『続きは072にしたかったぜ』
「ぶはっ!」
期待を裏切らない英雄の言葉にあたしは耐えることが出来ず、お茶を吹き出した。喉をむりに広げられたせいで、痛みを感じる。『死ね』と送ろうとすると、英雄から電話がくる。
「なに?」
あたしが笑っていたと英雄にバレると、あいつは間違いなく調子に乗るので、平常心を意識して応える。
「あっ、出た出た。絵里ちゃん、久しぶり~」
「楓姉ちゃん⁉」
「そうよー。絵里ちゃんの大好きな、楓お姉ちゃんよー」
「おぉ、本当に久しぶりじゃん。なんで、なんでいんの?」
楓姉ちゃんは高田家の長女で、歳はあたし達の三つ上になる。今は大学二年生で、北海道の大学に通っている。声を聞くのは久しぶりだった。その懐かしい声に、前のめりになる。
「あっちにいても雪でやることないし、寒いだけだから久しぶりにこっちに帰ってきたの」
「今ね、ひー君とハル君と一緒に、ご飯を食べているところなの」
画面を見てと言うと、ビデオ通話に切り替わった。
よく皆で食べにきたレストランだ。楓姉さんの横にハルが座っていて、その前に英雄がいた。
楓姉ちゃんはハルの横にべったりと身体を寄せている。ハルの事を特別可愛がっているのは、今でも変わらないようだ。
「いいなぁ。青葉は?」
「それがね、部活動のお友達とお出かけしちゃったみたいなのよ」
そして、もうすぐそっちで会えるからと付け加えた。
「青葉ちゃん、そろそろお引越しだからよろしくしてあげてね」
「わかった。こっちからも連絡してみる」
「ありがとう。お礼にキスしちゃう」
画面に楓姉ちゃんの唇が迫ってきた。画面は真っ暗になり水っぽい音が聞こえた。
「はぇぇ、これが噂に聞くASMRってやつかー」
「姉ちゃん。それ俺のだから止めてくれ」
「うふふ、ごめんね。つい楽しくなってきちゃって」
楓姉ちゃんの頬はほんのりと赤かった。お酒を呑んでいるらしい。無邪気な笑顔は子供らしかったが、ふくよかに実った身体は大人の女の色っぽさがあった。
「お姉ちゃん手が付かれてきちゃった」
スマホを渡された英雄はテーブルの端に三人が映るように調節して固定した。
「そもそも、姉ちゃんを呼んでないからな。勝手に着いてきて滅茶苦茶すんじゃねぇよ」
「こらっ、もう高校生になったんだから、そんな乱暴な言葉を使っちゃいけません」
「ひー君って言うな! もう君付けされる歳じゃねぇ」
「あらあら、まだ反抗期なのね」
楓姉さんは、手のひらを顎に添えると、首を横に振る。
天然の入ったお嬢様みたいな仕草は大学生になっても変わっていなかった。むしろ大人っぽさが増したせいで拍車がかかったまである。
「諦めるんだ、英雄。抵抗したって無駄なんだから……辛抱だ」
「ハル君まで冷たーい。久しぶりにお姉ちゃんに会えて嬉しくないの?」
腕に絡みつかれて、うりうりと豊満な胸に押し込まれている。ハルは、幸と不幸の混ざったような表情でたじろいでいた。
「アハハ! ハルがエロい顔してるよ」
「どうして? ハル君は、お姉ちゃんの胸でエッチな気持ちになったりしないもんね」
「姉ちゃん! 俺のダチに変な性癖を植え付けんな!」
「そんなことないよね。あれっ、どうして黙っているの?」
ハルはじっと目を瞑っている。自分の理性と戦っているのだろう。
「鼻の下伸ばしちゃってさー、やらしー」
「……伸ばしてなんかない」
「姉ちゃん、女の乳が男にとって凶器だって事を自覚しやがれ!」
「ヒデ君、そういう発言は外でしないの。周りの人に迷惑掛かっちゃうでしょ」
「周りに気ー回せる余裕があるんならハルから手を放してやれ。このままだとハルの脳がオーバーヒートしちまう。劣等生で読んだんだ。無茶すると桜シリーズみたいになっちまうぞ」
「ち……がう、俺は調整体魔法師じゃない……」
「——お客様。周りの迷惑なので、もう少しお静かにお願いします」
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