第14話 絵里の春休み②

 楽しい春休みが始まった——はずだった。


 一年間頑張ったあたしにご褒美の一つでもあげたいくらい、今日はめでたい日。


 だけど、今回の春休みはあたし史上最も退屈な春休みになると予想していた。なぜなら、あたしを置いてハルと英雄が実家に帰ってしまったから。


 実家に戻るお金を用意できなかったので、あたしは一人寂しく月城に残る事になった。


 二人は終業式の日の夜、電車で帰っていった。少しくらいこっちいたっていいのにさ……。


 たまには帰ってきなさいと、お母さんからあたに連絡があるから、正直にお金が無いと言えば電車賃くらい出してくれたかもしれない。


 あたしはついてなかった。三月にデッキが割れ、続けざまにトラックとシューズも壊れてしまうとは——。スケボーはあたしにとって自分の身体と同じくらい大切な物。骨折して放置する人はいないでしょ? 金が無いから治療しなんてあり得ないし、つまりそう言う事。


 やることがなくて暇だ。英雄の家に漫画を読みに行きたいけれど、肝心な時にいないのがあいつだ。ああ、お金さえあれば。


「お腹空いたな……」


 お腹が鳴って、そろそろ起きようとベッドから起き上がる。


 そういえば、二人の電車待ちで寄ったレストラン以来何も食べていない。


 寝すぎたせいで身体が重いし力が出ない。床を這いながら、やっとも思いで冷蔵庫を開けると、中には賞味期限の切れた納豆とキムチしかなかった。どちらも元から腐っているような物だし、賞味期限なんて関係ないけど。


 納豆とキムチの相性は良い。これに冷奴でもあれば一晩を楽しく過ごせる。ただ、これだけでは流石に空腹は満たせない。


 お米を切らしたのは記憶に新しい。パスタがあったかな?


「米がないなら、パスタでいいじゃない」


流行りの曲のメロディーに乗せながら、頭に浮かんだ歌詞を口ずさむ。キッチンの上の棚にしまってある乾燥パスタを背伸びして取る。⋯⋯これも一食分か。残ったパスタをすべて鍋に投入する。

 

 これを食べたら家の中から食材が無くなる。外食が多いので、家に備蓄は多くない。こんな時に一食分しかないなんて、どうやらあたしは本当についていないらしい。


 七分でセットしたタイマーが鳴り、火を止めた。


 湯を切ってお皿に移す。そこに納豆とキムチをおしゃれに乗せて完成。恐らくこれが春休み最後の贅沢な食事、記念に一枚撮っておこうか。


 普通に美味しかった。さて、そろそろ事実と向き合わなければならない。食後にインスタントコーヒーを淹れて思考する。


 財布の中身とツキポの残高をチェックした結果、残金は一千と約五百円。ハル達が帰ってくるまで一週間、金もなければ食料もない。このままだとマジでやばい。


 ここからはサバイバルだ。自分の力でどうにかするしかない。今頃、実家でのんびりと過ごしている二人を想像すると恨めしい。


 何かを探しに、スケボーを片手に街に出ることにした。鍵を閉めて、エレベーターで一階に降りる。ロビーを出ると人にぶつかりそうになった。


「ごめんなさい。あら、宮田さん。今日もスケボー?」


 同じ階に住む先輩の……、誰だっけ?


 買い物帰りのようで、熊の刺繡の入ったトートバックには沢山のお菓子が詰め込まれている。


 無言で頷く。噂に聞く女子会というやつだろうか。あたしはやったことがないからわからないけれど、女子会では沢山の甘いお菓子が用意されると聞いている(ソースはハル)。


「びっくりさせちゃってごめんね、お詫びにこれあげるよ」


 バッグから飛び出していたお菓子を見ていると、先輩は一つ取り出すてくれた。熊の形を模ったカラフルなグミ。


「ありがとう⋯⋯ございます」


 お礼を言うと先輩はにこやかに笑って手を振るとエレベーターに乗った。


 マンションを出る前に食べ物が手に入った。幸先がいい。


 グミが零れ落ちないように袋の角を小さく開いて、早速ひとつ取り出して口の中に放り込む。残りはライダースジャケットのポケットにしまった。

 

 あてがある訳ではないけれど、商店街に向かってプッシュした。


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