2-3
○総合病院・小笠原の病室
ベッドに腰かけ外を眺めている小笠原。
手にはスマホを持っている。
画面には海都と毅彦の3人のグループメールでのやり取りが表示されている。
小笠原が送ったメッセージで会話が終わっている。
小笠原N 「いつ病気が悪化するか分からないという恐怖心と、病気が治るのか分からないという不安な気持ちと、あと少しの寂しい気持ち(家族からも友達からも心配されないから)を抱いて過ごすオレだけど、未だに野球選手になれると信じている。もちろん、そう信じている理由もある。それは、大好きな野球の仕事に携わりたい、ということと、よくテレビとかでも話題になる、病気の子供たちのために、スポーツ選手が会いに来たり、支援してくれたりする、そういう活動もやってみたいこと。だから、どうしても諦めきれない」
写真フォルダをスクロールしていく小笠原。
野球選手の写真。
野球チームで撮った写真。
自分が野球をする姿が映るビデオ。
その写真や動画を、柔らかな表情で見ていく。
小笠原N 「そんなオレが代行サービス運否天賦のサイトを知り、そしてメールを送ろうと決めたのは、すぐ隣の病室に入院する楓真から運否天賦のサイトを見せられたことが発端だった」
○(回想始め)同・小笠原の病室(雨)
小笠原のベッドに潜り込む塩崎。
高い笑い声をあげながら戯れる。
塩崎 「ねぇ、ゆづ」
小笠原 「なに? 楓真」
塩崎 「これ、知ってる?」
自分のスマホを小笠原に見せる塩崎。
その画面には、代行サービス運否天賦のサイトが表示。
小笠原 「ううん。知らない」
塩崎 「だよね」
小笠原 「それが、どうしたの?」
塩崎 「このサイトにね、て・ん・せ・い って書いてあるんだ。でも、分からないんだ。ねぇ、ゆづ、てんせいってなーに?」
頭を掻く小笠原。
少しの照れ笑いを浮かべる。
小笠原N 「小学1年生じゃ、転生の意味を知らないか。いや、知ってる子もいるか。そうだよ、楓真って周りと比べてピュアだもん。知らなくて当然だよな」
小笠原 「簡単に言うと、生まれ変わり、だよ」
塩崎 「生まれ変わり?」
小笠原 「もし楓真が死んでも、また何か別のものになって、うーん例えば、楓真が好きなキリンとかに生まれ変わって、新しい生活を送る……みたいな感じかな」
塩崎 「(可愛い怒り)まだ死んでないよっ!」
小笠原 「あ、ごめん」
小笠原の身体を小さな拳で、弱い力で殴っていく塩崎。
小笠原 「(小声)ごめん、ごめんよ」
泣き顔になってく塩崎。
塩崎の頭を優しく撫でる小笠原。
小笠原 「なぁ、楓真。もう一回スマホ見せて」
塩崎 「いいよ」
塩崎のスマホ画面をスクロールしていく小笠原。
小笠原 「あー、なるほど」
塩崎 「何がなるほどなの?」
小笠原 「(画面を見せながら)なんかね、この社長さんが、依頼したその人の人生を、代わりに送ってくれるみたい。それで、その依頼した人は、自分が願った幸せな未来を送ることができる……って、言っても分からないよね」
塩崎 「分かんない」
小笠原 「(苦笑い)だよね……」
困り顔で頭を掻く小笠原。
小笠原の顔を覗き込む塩崎。
塩崎 「ねぇ、ゆづ。僕みたいな病気の子でも、幸せになれる?」
小笠原 「うーん、それは訊いてみないと分からないかな」
塩崎 「誰に?」
小笠原 「社長さんだよ。このサイトにメールを送る機能があるから、楓真の代わりに訊いてあげる」
塩崎 「ほんと?」
小笠原 「うん。本当だよ」
塩崎 「病気治して学校行きたいんだっ! お友達つくって、いーっぱい遊びたいんだ!」
小笠原 「うん。そうだね」
塩崎の頭を幾度と撫でる小笠原。
気持ちよさそうに、時折恥ずかしそうにする塩崎。
× × ×
(時間経過)
優しく塩崎の頭を撫でる小笠原。
小笠原の足元で寝息を立てる塩崎。
小笠原 「(呟く)オレだって、こんなところにずっといたくないよ」
○(回想終わり)同・小笠原の病室(夜)
小笠原N 「その日の夜、消灯時間を過ぎている中、オレはベッドサイドの明かりを頼りに、小さなメモ帳へメールする内容を書き起こす作業をした。案外、すんなりと書けた内容。あとはそのまま打ち込んで送るだけだ、そう思っていた矢先、突然胸に走った激痛。そこからの記憶はなかった。先生から聞いた話だと、オレはまる3日間眠り続けていたらしい。起きてからも1週間はスマホも触れず、楓真たちとも会えない状況だった」
○同・病棟廊下(朝)
看護師と共に歩いている小笠原。
○同・小笠原の病室(朝)
ベッドにゆっくりと腰かける小笠原。
看護師と親し気に話している。
小笠原N 「突然の痛みに襲われてから2週間が経ち、自分の病室に戻ってきたオレ。そんな俺にいの一番に駆け寄ってきたのは、やはり楓真だった」
塩崎 「ゆづ! おかえり!」
小笠原 「ただいま」
塩崎 「大丈夫?」
小笠原 「もう大丈夫」
塩崎 「社長さん、連絡できた?」
小笠原 「あぁ、ごめん。メール今送るから」
塩崎 「いいよ。でもね、僕、ずーっと待ってたんだ、ゆづのこと」
小笠原 「ありがとな、楓真」
髪の毛をわしゃわしゃと触る小笠原。
塩崎は口元を緩め続ける。
塩崎 「ちょっと、強いよ~」
触り続ける小笠原。
段々と笑い始める塩崎。
2人の笑い声が病室に響く。
小笠原N 「このとき、俺は気付いていることがあった。それは、楓真の命が残りどれぐらいなのか、ということ」
○(回想はじめ)病棟・空きスペース
ドアの隙間に耳を近づけている小笠原。
医師 「落ち着いて、聞いてください。楓真君の病状は、かなり悪化してきています。恐らく、もってもあと2か月ぐらいかと」
塩崎母 「そんな……」
医師 「できる限り、私たちがサポートします。ですが、覚悟はしておいてください」
塩崎母 「(涙声で)はい」
医師 「このこと、楓真君にはお伝えになりますか?」
塩崎母 「家。最後まで笑顔で過ごさせてあげたいので、伝えないであげてください」
医師 「分かりました」
○(回想終わり)小笠原の病室
小笠原 「ねぇ、楓真」
塩崎 「なに?」
小笠原 「楓真はさ、死ぬかもしれないって考えたりする?」
塩崎 「うん。でも、先生が僕の病気を治そうと頑張ってくれてるから、まだ死なないって思ってるよ」
小笠原 「そっか。そう、だよな。先生、頑張ってくれてるんだもんな」
塩崎 「だから、ゆづも負けちゃだめだよ」
小笠原 「だな。オレら、一緒に頑張ろうな」
スマホの画面。
小笠原が打ち込んだメールが表示されている。
小笠原N 「今から1か月ぐらい前、電話ができるスペースから病室に帰ろうとしていた時、たまたま聞いてしまった、担当医と楓真のお母さんとのやり取り。楓真のお母さんは、姿こそ見てはいないけれど、泣いているのだけは分かった。この時、オレは思った。もし自分が余命宣告をされたら、両親や兄姉は泣いてくれるのだろうか、と。少しぐらい、悲しんでくれるのだろうか、と」
小笠原 「楓真、今から社長さんにメール送るからね」
塩崎 「うん!」
送信のボタンを押す小笠原。
塩崎は嬉しそうに画面を見ている。
その様子を見て、小笠原もにこりと笑う。
小笠原N 「本当は、裏切りたくなかった。でも、オレは楓真のことを裏切った。やってみると、清々しい気持ちもあって、正直怖かった。ただ、今こうして裏切りをしたのは、完全なる正当防衛だ。誰も悪くない。悪いのは、この状況を生み出した病気だ」
○同・(夕)
メールの画面をスクロールしていく小笠原。
小笠原N 「社長さんへ。転生の依頼をする前に、一度お話を聞いてみたくて、それで今回メールを送りました。オレは小学4年の小笠原悠月といいます。オレは今、ある心臓病の治療のために、大きな総合病院の小児科に入院しています。サイトの内容を見て疑問を感じたので、質問します。①小学生の、しかも病気の体でも、転生して、人生を変わってくれるんですか。②転生してもらったら、オレは幸せになれるんですか。③転生ということは、オレも死ぬ必要があるんですか。④オレが住んでいるのは、会社がある東京じゃないし、病気だから直接行くことはできないけれど、会いに来てくれるんですか。お返事、よろしくお願いします。悠月より」
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代行サービス運否天賦です 成規しゅん @Na71ru51ki
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