2-7

○小笠原家・外観(朝)


   住宅街にある、二階建て一軒家。

   鳥のさえずり。

   ゴミ出しをしている近隣住民。


○同・中(朝)


   小笠原の自室。

   机の上が散乱している。

   床に置かれた黒色のランドセル。

   ベッドの上で寝ている。

   目をぎゅっとさせたあと、うっすらと目を開いていく小笠原。


小笠原N「ぼやけた視界に広がる景色は、病室ではなく自宅の、しかもオレの部屋だった」


   目を擦る小笠原。

   ゆっくりと身体を起こす。

   そして辺りを見渡す。


小笠原N「何かの間違いじゃ……、いや、ここはオレの部屋で間違いない。病室とは違うものばかりが、この部屋にはあるから」


   手を見つめ、笑い始める小笠原。


小笠原N「胸には何も貼られていない。機械も置かれていない。ベッドの横に柵もない。ただ、治療の痕は胸元にしっかりと刻まれていた」


   ベッドから降りながら、辺りを見渡す小笠原。


小笠原「スマホ、スマホ……って、どこに置いて――」

真弓「悠月! 何やってるの! 早く起きなさい!」


   部屋のドアが、真弓によって勢いよく開けられる。

   真弓は鬼の形相を浮かべている。


小笠原「お母さん……」

真弓「何やってるのよ、早く準備しないと学校に遅刻するわよ」

小笠原「ごめん。今準備す――」

真弓「送ってくから、早くしなさいよ」

小笠原「え」

真弓「昨日まで入院してたんだし、荷物も多いから」


   少しだけ笑う真弓。

   小笠原の表情は少し強張っている。


小笠原N「オレは昨日まで入院してたのか。でも、ちゃんと退院した……、ということは……?」


小笠原「オレの病気ってさ、治ったんだっけ?」

真弓「そう言われたでしょ。だから退院したんでしょ」

小笠原「そ……、だよね」

真弓「とにかく、早く準備しなさいよ。ご飯も準備してるんだから」

小笠原「はーい」


   真弓はドアを閉めて部屋を出て行く。

   部屋の真ん中に立つ小笠原。

   右腕を突き上げる。


小笠原「よっしゃ!」


○同・リビング


   階段から降りてきた小笠原。

   ランドセルを背負っている。

   テーブルの上。

   空になった食器類。

   その近く、制服のネクタイを結ぶ一太。

   荷物の確認をしている比奈。


小笠原「兄ちゃん、姉ちゃん、おはよう」

一太「うん」

比奈「おはよう」


   電源が入れられているテレビ。

   アナウンサーが占いの結果を読んでいる。


真弓「悠月、早く食べな」

小笠原「うん」


   テレビ画面を注視している小笠原。

   その小笠原にぶつかる一太。


一太「悠月、ちょっと邪魔」

小笠原「あ、ごめん」

アナウンサー(声)「今日の運勢第一位は、ふたご座のあなたです!」


   喜びを露にする小笠原。


小笠原N「喜ぶオレの姿を見た母は、軽く鼻で笑った。それでもよかった。オレからすれば、転生した初日が1位でスタートできることに意味があるから。そして、オレは兄ちゃんと姉ちゃんに対して、唐突に今までの感謝を伝えたくなった。だから、口を開いた」


小笠原「兄ちゃん」

一太「何?」

小笠原「姉ちゃん」

比奈「どうしたの?」

小笠原「今まで心配とか迷惑とかかけてごめん。今日からオレ、第二の人生を生きるから」

比奈「は? 今さら何言ってんの? っていうか、もうこれ以上余計な心配かけさせないでよね。こっちの寿命が縮まるから」


   比奈、口元を軽く緩ませる。

   小笠原も笑みを浮かべる。


一太「俺、もう行く」

真弓「分かった。あ、ちょっと待って」


   鞄の中から財布を取り出す真弓。

   チャックを開け、中から五千円札を取り、一太に手渡す。


真弓「3人とも、夕ご飯これで適当に食べて」

比奈「え~、また?」

真弓「比奈、文句言わないで」

比奈「文句じゃないよ。私はお母さんの手料理が食べれないのが嫌なだけ」

真弓「ふふっ、そっか。じゃあ、今度美味しい料理作ってあげるから。だから今日はごめんね」

一太「じゃあ、俺は大盛りの唐揚げで!」

比奈「えっ、お兄ちゃんずるい! お母さん、私はオムライスがいい!」

真弓「はいはい。早く学校行きなさいよ」

比奈「はあい」


   俯きながら椅子に座る小笠原。

   羨ましそうに一太や比奈のことを見ている。


小笠原N「オレは兄姉母の会話の流れに乗ることができなかった。この先、こういったことが続くのだろうと思うと、正直嫌だった」


一太「じゃあ、行ってくる」

真弓「はいはい」

比奈「ちょっと、お兄ちゃん待って! 靴下履くから」

一太「えー、早くしろよ」


   俯いたままの小笠原。

   背後から近づく一太。

   そのまま小笠原の髪の毛を触り始める。


小笠原「えっ、何?」

一太「元気になってよかったな」

小笠原「うん……、あ、ありがとう」


   一太は照れ笑いを浮かべる。

   真弓は食器を手に、キッチンへ歩いて行く。


比奈「お待たせ! 行こう!」

一太「うん」

真弓「行ってらっしゃい」

一太と比奈「行ってきます」


小笠原N「7時ちょっと前に出た兄と姉。そこから遅れること17分、オレはお母さんと一緒に家を出た。久しぶりに背負ったランドセル。背中に当たるあの感じが、懐かしくもあり、少し違和感もあった」


○同・駐車場


   停まっている軽自動車の鍵を開ける真弓。

   荷物を後部座席に置く。


真弓「早く乗って」

小笠原「うん」


   助手席のドアを開ける小笠原。

   ランドセルを前に抱える。

   ハンドルを握る真弓。

   そのままアクセルを踏み、駐車場を出て行く。

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