1-7
○高校・外観(曇り)
制服を着た中学生たちが集まってくる。
その中に星野の姿もある。
右手ではお守りを握っている。
教員が拡声器を使い、中学生たちを案内している。
星野N 「俳優という肩書を背負ったままで受けた高校受験。選んだのは、家から車と電車を乗り継いで2時間近くかかる男子校。偏差値はそれほど高くないが、校則が厳しいことで有名で、わざわざ厳しいところに入学しようなんていう生徒は少ない。そんな学校だった」
○星野家・リビング(夜)
料理中の喜代。
ドアを開け、中に入ってくる星野。
手には数学の問題集が握られている。
喜代 「試験はどうだった?」
星野 「多分、大丈夫かと」
喜代 「なら良かった」
星野 「すいません。遠い男子校を選んでしまって」
喜代 「別にいいじゃない。だけど、ちゃんと合格しなさいよ。そうじゃなきゃ、自宅近くの高校を選ぶしかないわよ。それに、せっかく容認してあげてるんだからね。不合格なんて許されないことぐらい、分かってるでしょ?」
星野 「(頷きながら)はい」
○同・自室(夜)
机の上に置かれた入試関連の5冊の問題集。
その右横には、男子校のパンフレットが置かれている。
星野、パンフレットに目を通していく。
星野N 「もちろん、自宅の近くにも、学校色豊かな、様々な高校はある。ただ、どこも共学だった。小学校、中学校で、それぞれ女子からの熱烈なアピールを浴び続けたことにより、高校では、とにかく女子という存在から遠い距離を置きたくて仕方なかった。ただ、そういう理由で選んだ男子校だったのだが、両親に反対されなくてよかったと思えた」
○同・教室(雨)
面接を受けている星野。
教員3人が椅子に腰かけて、星野のことを見ている。
星野N 「面接試験では、芸能人として活動していた経歴についての話になり、どうして芸能界に入ったのか、また、何がキッカケで芸能界を辞めたのか、その本当の理由を赤裸々に明かした僕は、無事に第一志望校である男子校に合格」
○同・体育館
男子ばかりが集う体育館。
学ランに身を包んだ星野。
星野N 「4月には一般人として高校に入学し、第2の星野昇多として、新たな門出を迎えた」
○同・教室(曇り)
数学の授業を受けている星野たち。
おじさん教員が黒板に数式を書いていく。
星野N 「一般人となった僕は、これからも俳優として活動をしていた強みを生かして、でも、これからは芸能人だから、という縛りのない、自由な学校生活や私生活が送れる、そう信じていた。ただ、僕が思っているほど、現実は甘くなくて、簡単には一般人として馴染むことはできなかった」
○同・職員室
職員室を出ようとする星野。
教員Aが星野に話しかけている。
愛想笑いをする星野。
○同・外観(雨)
傘をさして登校している星野。
後ろから高身長の男子生徒に話しかけられる。
星野、機嫌よく受け答えしている。
星野N 「受験のときは、僕に声を掛ける男子は現れなかった(たぶん受験という独特の空気感のせいもあるだろうが)のに、入学してみると世界は変わった。やはり生徒だろうが先生だろうが、誰の中でも、星野昇多は子役のころからの天才児・俳優というイメージが強く、一般人としては扱われなかった。入学式以降、毎日のように声をかけられ、ダル絡みされ、質問され、ファンだと言われ、時には同性として好きだと告白され……。そういう環境下に置かれてしまった僕は、自分が芸能人であったという過去が忘れられず、母の教えの通り、高校でも広くて浅い交友関係しか築くことができなかった」
○同・教室
異性の好きなところの話で盛り上がるクラスメイトたち。
星野は椅子に座り課題をしている。
星野N 「しかし、そうした中でも、僕には、初めてと言ってもいいぐらいの、気心許せる友人ができた。その人物の名前は、
○同・図書室(夕方)
委員会の活動をしている星野と田辺。
星野N 「僕が田辺と仲良くなるまでには、1か月弱を要していた。なぜそんなに時間がかかったのかというと、まずもって、周りの同級生たちや先生が僕のことを芸能人として扱ってくるために、田辺からの声掛けもそういう類でしかないと、勝手に思い込んだことが原因だった」
星野N 「そういう思い込みのままに田辺と会話をしていると、僕のことを、単なるクラスメイト、一般人として接してくれていることに気付き、その日から田辺のことを意識するようになっていた」
○歩道橋(夕方)
子供のように走る星野。
田辺、星野の名前を呼びながら歩いて追いかける。
星野N 「性格こそ違うのに、なぜか波長があった僕たちは次第に仲良くなっていき、いつからか、常に行動を共にしている関係に。友達になろうなどということはなく、自然と田辺に対して心を許していった。知り合って2か月が経とうとする頃には、田辺の存在自体が、僕の心の拠り所となっていた」
○高校・パソコン室
パソコンを使った授業を受けている星野たち。
ホワイトボードに用語が書かれている。
星野N 「そんな田辺は、学年の中で一番、パソコンに関する豊富な知識を持ち併せていた。その知識量は随一で、情報系の授業を担当している先生よりも頼りにされてしまうほど。そんな田辺に対し、僕はとある話を持ち掛けた」
○駅(夕方)
学ランに身を包んだ男子生徒たち。
ホームで列を成している。
星野と田辺は列の後ろに並んでいる。
星野 「ねえ、田辺」
田辺 「何?」
星野 「もし将来、僕が会社を起業したら、田辺がシステムエンジニアとして、会社のシステムを支えてくれないかな?」
田辺 「何だよ、それ。ってか、わりい。俺にも一応夢ってもんがあるし、それ追いかけてるから」
星野 「(いじけて)そっか。つまらないなぁ。僕、田辺と一緒に仕事するのが夢だったんだけど」
田辺 「知らないよ」
星野 「えー、どうしてそういう言い方するんだよ。当たりきついって」
田辺 「(笑いながら)いやいや、そもそも星野が起業したいっていう気持ちを持ってることすら知らなかったんだから、いきなり言われて、『はい、やります』ってそう簡単に言えないだろ」
星野 「(大笑いして)それもそうか」
駅に入ってくる満員電車。
星野、田辺と一緒に乗り込む。
星野N 「僕が持ち掛けた話に、田辺は乗り気ではなかった。そんな田辺の、本当の気持ちを知らない僕は、夢を実現するために、起業に向けての策略を既に練り始めていた。もちろん、システムエンジニアの1人に田辺を採用することを見越して」
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