1-8

○高校・教室


   盛り上がっているクラスメイトたち。

   その輪とは違うところで、星野と田辺は立って話をしている。


星野N 「遅刻も早退もせず、厳しい校則も一度も指導を受けることなく、往復4時間強の道のりを通い続けた高校3年間。母の教えに従ってしまったせいで、友人関係こそは浅いままだったが、かけがえのない友人、田辺と出会い、そして、この男子校でしか味わえない青春を数々経験することができた。芸能人としての縛りが無い学校行事への参加は、今までで一番輝いていたし、夢だった修学旅行に行くこともできた。女子に邪魔されない空間は、まるで天国にいるかのようで、居心地の良さしか感じられなかった」


○アパート・中


   段ボールが積まれている部屋。

   机の上に置かれた紙の資料。

   荷物を出している星野と田辺。


星野N 「高校を卒業した僕は、実家から離れた大学へ進学。その大学には、田辺も進学した。学部は違うものの、同じバイト先を選び、狭くて古いアパートの一室をシェアして暮らすなど、もはや友達の域を超えた関係性になりかけていた僕と田辺。そして、僕らは、大学在学中に、とある夢の実現に向けて、大きな一歩を踏み出す」


○アパート・中(夜)


   コンビニ弁当が2つ置かれた机。

   古い扇風機が音を鳴らしながら風を送る。

   埃を舞い上がらせている扇風機。

   星野は起業に関する記事をスマホで読みながら食べている。

   田辺はレポートを書きながら食べている。


星野N 「その一歩を踏み出すきっかけを持ち掛けたのが、田辺だった。僕が高校生の頃から抱き続けている夢、起業に対して、僕が知らない間に、田辺自身も少しずつ興味を持ち始めていたのだ」


○屋上(夜)


   打ちあがる花火。

   それを見上げている星野と田辺。

   少し離れたところで見ている大人5人。

   ワイワイと盛り上がっている。


星野N 「そして、大学3年の8月の晩、夜空に打ちあがる花火を、バイト先の屋上から、仲間たちと見上げながら、田辺が僕に問いかけてきた」


田辺 「なぁ、星野」

星野 「なに?」

田辺 「起業、本当にするつもりなのか?」

星野 「うん、するつもりだよ」

田辺 「それってさ、どんな会社?」


   笛を鳴らしながら空へと昇っていく花火。


星野 「代行サービス」

田辺 「代行って、何の?」

星野 「転生」

田辺 「転生って……、もしかして生まれ変わりの?」

星野 「うん、あの転生だよ」


   破裂音。

   大きな花火がいくつも夜空に咲いていく。


田辺 「へえ、って、いや待て。どうやって転生を代行するんだ?」

星野 「僕が代行するんだよ」

田辺 「え、星野が?」

星野 「(明るく)うん」

田辺 「でもどうやって……」

星野 「簡単だよ。僕が持つ能力を活かすのさ」

田辺 「星野が持つ能力……?」

星野 「実はね、転生できる能力を持ってるんだ」


   バラバラと音を鳴らしながら、散っていく花火。


田辺 「は? え、星野、お前、勉強しすぎて頭おかしくなったのか?」

星野 「えへへ、なかなか理解できないよね」

田辺 「分からないな」

星野 「じゃあさ、明日のバイト終わり、ちょっと夜道歩かない?」

田辺 「え、何でまた」 

星野 「死にかけた野良猫を探しに」


○歩道(深夜)


星野N 「この会話をした翌日、僕は田辺を連れて、懐中電灯を片手に夜道を歩き続けた。そして、深夜1時過ぎ、道端で弱っている一匹の猫を見つけた僕と田辺。僕は目を輝かせながら、こう呟いた」


星野 「今から、この猫に転生するから。見てて」


星野N 「僕の言っている意味が理解できていない田辺は、頭を抱えてあたふたし始めた。その隙に、僕は姿を消して、猫に転生。つまり、そこには元気になった猫がいるのみで、僕の姿はどこを探してもないということ。そして僕は、田辺に気付いて欲しくて、何度も何度も、田辺の足元をぐるぐると歩き続けた」


田辺 「おい、星野」


   猫が甘い声を発する。

   辺りを見渡す田辺。

   時折、不安げな表情を浮かべる。


星野N 「目の前で起きている現象が全くもって理解できない田辺は、次第にムキになって、こう叫んだ」


田辺 「遊ぶのも大概にして、いい加減出てこいよ!」


星野N 「怒りを露にする田辺を見たのは初めてだった。だから、これ以上ふざけるのはやめておこうと思った僕は、転生をやめて、人間の姿に戻った。そして、転生を終わらされた猫は、あっけなく死んだ」


   田辺の背後から出てくる星野。

   腕に死んだ猫を抱いている。


星野 「(明るく)ちょっと、そんなにムキにならないでよ」


星野N 「転生を終えた僕は、いつものテンションで田辺に話しかけた。すると田辺は目を真ん丸とさせて、疑心暗鬼の表情でこう尋ねてきた」


田辺 「……星野、なのか?」

星野 「そうだよ」

田辺 「えっ、あ、え、ね、猫は?」

星野 「死んだ」


   猫を田辺に向けて差し出す星野。

   田辺は身震いして目を伏せる。


田辺 「死んだって、俺の目の前でか?」

星野 「大丈夫だよ。ちゃんと成仏してもらったから」


星野N 「怯えているように見える田辺に、屈託のない笑顔を見せ続けた僕。田辺の目を見ながら、こう伝えた」


星野 「ね、これで分かったでしょ? 僕が転生できる能力を持ってるって言う意味が」

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