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○総合病院・小笠原の病室(曇り)(朝)
ベッドの上で正座をしている小笠原。
両手でスマホを大事そうに抱えている。
スマホの画面。
メッセージ受信の文字が表示。
小笠原 「あっ、きた」
小笠原N 「問い合わせへの返事が来たのは、送って8分後のことだった」
小笠原 「(文字を指で追いながら)お問い合わせありがとうございます。ご質問の内容も含めて、星野が直接、小笠原様にお会いして話を聞きたいと言っているのですが、本日そちらにお邪魔してもよろしいでしょうか。お返事お待ちしております。 代筆 副社長」
文字を入力していく小笠原。
打っては消すことを繰り返している。
小笠原N 「(文字を打っている)早速の返信、ありがとうございます。ぜひ会いに来てください。病院の住所と面会の詳細について送ります。病院の住所は――」
送信ボタンを押す小笠原。
笑みを浮かべて空を眺める。
小笠原N 「返信への返信が届いたのは、1回目よりも早くて3分後のことだった。そこには、ひと言だけ添えられてあった。ぜひ、お会いさせてください。って。この言葉を見た瞬間に、オレは飛び跳ねたいと思うほどに嬉しくなった。転生してもらえれば、思うような人生が描ける。もしかしたら、プロ野球選手になるという夢を諦めなくて済むかもしれない。楓真には悪いけど、これは運命なんだから仕方ないんだ」
スマホの画面。
9時27分の表示。
ドアのノック音。
塩崎(声) 「ゆづ、あそぼ!」
小笠原 「今行く!」
スマホの電源を落とし、ポケットに入れる。
靴を履き、そのまま病室を出る。
○同・病棟廊下(曇り)(朝)
小笠原 「今日は何して遊ぶ?」
塩崎 「カードゲーム!」
小笠原 「ホント、お気に入りだな」
塩崎 「だって、ほかにやることないんだもん」
小笠原 「そうだよな。やることないもんな」
歩いている2人。
その背後から歩いてくる看護師A。
2人に話しかける。
○同・休憩スペース
カードを置く塩崎。
塩崎の背後に座る小笠原。
戸田と藤岡にアイコンタクトで負けるように伝える。
小さく頷く戸田と藤岡。
小笠原N 「お昼まではいつも通りの表情で、楓真たちとカードゲームを楽しんだ。楓真は、もちろんオレが午後から星野っていう人会うことを知らないでいる。そして、多分楓真がこの出来事を知ることはないだろうと思っている。だって、楓真は午後から3時間程度、検査室に行く予定になっているし、その後も色々と予定があるらしいから」
塩崎が優勢の状態となっているゲーム。
小笠原が塩崎に耳打ちをする。
塩崎 「うん、やってみる!」
小笠原の指示通りにカードを置く塩崎。
藤岡が額に手を当てて困り顔を浮かべる。
戸田 「もう無理だよ。これじゃ勝てない」
藤岡 「だよな。くそっ」
塩崎 「また勝った! ゆづ、ありがと!」
塩崎の頭を撫でる小笠原。
小笠原N 「そして、オレはこのまま面会した事実を隠し続けるつもりでいる。看護師とか、先生とかにもめっちゃ頼み込まないとだけど。悪いことをしているのは分かっていて、でも、楓真が傷つく姿は見たくないから、こうするしかないんだ。これこそが、オレの素の顔。このチャンス、絶対に逃さない」
○同・小笠原の病室
雲の隙間から太陽が出ている。
スマホで頻りに時間を確認する小笠原。
手には児童小説の本を持っている。
小笠原N 「お昼を食べてから30分。いつ来られても大丈夫なように、ベッドの上で大人しく、3週目の冒険ファンタジーの小説を読みながら、時間を潰していた。今のオレの気分は、遠足に行く前日みたいな感じ。ちょっと特別な感じが、堪らない」
小説を閉じる小笠原。
スマホで代行サービス運否天賦のサイトを開く。
小笠原N 「知らない人が来るのは初めてのことで、少しの緊張もあった。お母さんからは、知らない人を病室に入れちゃだめだよ、と言われている。入院した頃は小学3年生だったから、低学年だから仕方ないのかと思っていた。でも、4年生になった今でも、メールで口煩く言われていて、その時は適当に返事しているが、やっぱり反抗してみた気持ちが強くて、だから母に、家族に無断で星野という見ず知らずの人と会う。道中、看護師とかに会うだろうから、あとでちゃんと口止めしておかないとな」
ベッドの上で、小説を読み進める小笠原。
隣の病室から微かに聞こえてくる塩崎と母親の声。
塩崎 「今日の検査頑張ったら、おもちゃ買って」
塩崎母 「いいよ」
塩崎 「やったぁ!」
看護師 「よかったね、楓真君」
塩崎 「うん!」
会話を耳にして、小笠原は繭を顰める。
そして胸に手を当てる。
小笠原 「(呟く)ごめんな、楓真」
× × ×
(時間経過)
小説を閉じる小笠原。
栞を最初のページに挟む。
大きな深呼吸をする。
ドアのノック音。
小笠原 「はい」
星野(声) 「代行サービス運否天賦から参りました。星野です」
胸に手を当てる小笠原。
深呼吸をして、
小笠原 「(カッコつけて)どうぞ」
ドアがゆっくりと開いていく。
生唾を飲み込む小笠原。
ドアを凝視している。
星野 「(笑顔)こんにちは」
小笠原 「(声を震わす)こ、こんにちは」
ベッドの前に立つ星野。
グレーのチェック柄のスーツ姿。
背負っている青色の鞄を床に置き、姿勢を正す。
小笠原は星野を観続ける。
星野 「初めまして。代行サービス運否天賦の代表、星野昇多です」
星野は斜め45度に腰を倒す。
小笠原 「初めまして」
小笠原も頭を軽く下げる。
星野は目を細めて小笠原のことを見る。
星野 「君が、僕らに依頼をくれた小笠原悠月くんだね?」
小笠原 「そう、だけど」
星野 「緊張するよね、初対面だから」
小笠原 「べ、べつに、オレ、緊張とか、し、してないし!」
星野 「ははっ、大丈夫だよ。徐々にでいいから。あと、ちゃんと面会の許可は下りているから、安心して。まぁ1時間だけって制限されちゃったけどね」
小笠原 「あの、何て言ってここに来た?」
星野 「ん? ちゃんと説明したよ。代行サービス運否天賦を運営している、代表の星野昇多です、って」
小笠原 「何か、受付の人に聞かれたり、言われたりしなかった?」
星野 「案外するっと許可もらえたよ」
ニコニコと笑いかける星野。
小笠原も釣られて笑顔になる。
星野 「なんかね、受付の偉い人が僕のこと知っててくれてさ。会社の方針も理解してもらえたみたいだから、1時間だけなら許可しますって」
小笠原 「うわっ、まじか。あの人が面会の許可出すなんて。え、星野さんってそんな有名人なの?」
星野 「僕が返ったあとにネットで検索してみな。星野昇多って入れたらわかるから」
星野は照れ笑いを浮かべる。
目を輝かせる小笠原。
身体を少し前のめりにして、星野のことを凝視しながら
小笠原 「ねぇ、いつ転生してくれる?」
星野 「準備が整えば、ね」
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