1-4

○通学路(朝)

   青色のランドセルを背負って歩く星野。

   白色のマスクを着用。


星野N 「撮影期間中、僕の周りではあらゆる変化が起きていた」


○小学校・1年A組教室(朝)

   騒がしい教室内。

   星野がドアを開ける。

   それに気づくクラスメイトたち。

   あっという間に星野はクラスメイトに囲まれる。


女子児童数人 「(可愛く)おはよう!」

男子児童A 「(元気に)おはよ!」

星野 「(控えめに)おはよう」

男子児童A 「お前、子役やってたんだな!」

星野 「うん」



   各方面から話しかけられる星野。

   とりあえずな感じで頭を下げる。


星野N 「僕が子役をしていると知ったクラスメイトたちが、僕に対して急に接近してきたり、馴れ馴れしい感じで話しかけてきたり、芸能人だといって崇め始めたり、中には告白してくる子が現れたりするなど、注目の的になってしまったこと。そのことに対し、僕はありがとう、とか、頑張るね、とか、その程度の返事しかすることができなかった」


男子児童A 「おれ、ママに自慢した! 同じクラスに子役がいるって!」

女子児童A 「みさきも、お姉ちゃんに自慢しちゃった!」

男子児童B 「昇多! おれと友達になろうぜ!」

女子児童B 「昇多くん、私、応援してるね!」

星野 「(まごまごしながら)あ、ありがとう」


    ×    ×    ×

   (フラッシュ)


喜代 「将来のこともあるんだし、今のうちから人付き合いのこと、ちゃんと考えなさい。いいわね」

星野 「お友達、欲しい。みんなと仲良くなりたいです」

喜代 「みんなと仲良くなんて甘いこと言うんじゃないよ。それに、友達なんていなくてもいい。実際、友達が多くてよかったなんて思える日はこないんだから」


    ×    ×    ×


星野N 「僕には友人ができなかった。母の監視下にいる以上、元来から許されていなかったから。そのせいで、僕は同級生や仕事関係者と、浅くて広い関係性しか築くことができなかった。僕だって、もちろん友達が多い小学生でいたかった。友達と遊ぶ休日を過ごしてみたかった。周りの子役たちは、友達との楽しいエピソードを語るのに。なんだか、このころから僕は負けている気がしていた」


○同・校内廊下


星野N 「2つ目の変化としては、上級生や先生たちからの声を掛けられる機会が増えたこと。担任だろうが、よく名前も知らない先生だろうが、すれ違うたびに話しかけてきていた」


星野 「こんにちは」

男性教員 「あぁ、星野君。ドラマ観たよ。演技上手なんだね」

星野 「あ、ありがとうございます」

男性教員 「これからも頑張るんだよ」


   星野、ペコっと頭を下げる。

   そして廊下を足早に歩く。


○同・下駄箱(夕方)


星野 「さようなら」

女性教員 「星野君、次の作品も期待してるよ~。頑張ってね」

星野 「はい。頑張ります」

女性教員 「気を付けて帰るんだよ~」


   深々と頭を下げる星野。

   そして、俯いたまま急いで靴を履く。


星野N 「こんな感じで、僕のことを褒める内容で話しかけてくる。一方で、上級生たちからは、違う角度からの質問が投げかけられてきた」


○同・通学路(朝)


   青いランドセルを背負い、手提げを持っている。

   俯いて歩く星野。

   マスクをしている。


上級生女子 「ねぇねぇ、君、星野昇多くんでしょ?」

星野 「はい」

上級生女子 「やっぱり。マスクして手も、意外とカッコいい顔してるんだね」

星野 「え……?」

上級生女子 「フフッ、じゃあね!」


○同・グラウンド(朝)


   サッカーをしている上級生男子たち。

   そのうちの1人が星野を指差して、


上級生男子 「星野昇多だ!」


   駆けてくる上級生男子。

   星野、顔を上げる。


星野 「おはようございます」

上級生男子 「おはよう! あっ、ねね、訊きたいことあんだけど」

星野 「何ですか?」

上級生男子 「共演してるレイちゃんって、やっぱ生で見ても可愛い?」

星野 「え……」

上級生男子 「あ、可愛いか分かんねえかッハハ」

星野 「すいません」


   星野、頭を深く下げる。

   そして、玄関に向けて走る。


星野N 「こんな感じで、訊かれても困るような内容の話かけが多く、僕は当時から返答に困っていた。ただ、それでも自分が赤の他人から注目されることが恥ずかしくも嬉しくて、今後も演技を通して、色んな人を笑顔にできるような人でありたい、そう心から、純粋に思えていた」


○星野家・リビング(夜)


星野N 「また、家族からの対応にもちょっとした変化があった。今まで僕の芸能活動について、そこまで良いように思っていなかった父と兄。それぞれ、少し恥ずかしそうにしながら、僕にこう伝えてきた」


    ×    ×    ×

   (フラッシュ)


正隆 「お前も、やればできたんだな。期待しなくて悪かった」

星野 「いえ」

正隆 「色んな人の期待に応えられるように、次も頑張りなさい」


    ×    ×    ×


○星野家・星野自室


    ×    ×    ×

   (フラッシュ)


星野 「お兄ちゃん、僕のことどう思いますか?」

泰輔 「嬉しいに決まってるだろう? 昇多が注目されるの、兄としては誇りに思うよ」

星野 「ありがとうございます」


    ×    ×    ×


星野N 「この当時、僕は自分が芸能一家に生まれたことを、心の底から良かったと感じてはいた。家族も捨てたもんじゃないなと、偉そうだがそう思ってもいた。しかし、大きくなるにつれ、やはり避けようのない問題とぶつかることになるのだった」


○星野家・リビング(雪)


   窓の外、積もっている雪。

   暖炉の前で温まる飼い犬。

   その犬を撫でている正隆。

   星野と泰輔は昼ご飯を食べている。

   喜代はキッチンで洗い物をしている。


星野N 「年が明けると、僕の元へ出演オファーが絶えず舞い込んだ。その中で一番興奮したのは、その年の夏に公開を予定している映画に、主人公の息子役として出演して欲しいというものだった。なぜ興奮したかというと、もちろん興味深い役どころ(虐待を受けている設定)という点もあるが、主人公を務める俳優に憧れていて、共演できる夢を秘かに持っていたから。嬉しくて仕方なかった」


○撮影スタジオ・外観(朝)


   喜代が運転する車から降りる星野。

   首にチェック柄のマフラーを巻いている。

   手には台本を持っている。


星野 「行ってきます」


○同・内観(朝)


星野N 「その映画の撮影が始まったのは2月になってから。まだ寒さが残る中での、虐待を受けているというシーンの撮影は、正直言えば過酷そのものだったが、星野は自分の演技で誰かに喜んでもらえたり、生きる希望を与えられるのならそれでいい、という思いだけで頑張っていた」


○テレビ局・スタジオ


   インタビューを受ける星野。

   男性アナウンサーが星野に質問を投げかける。


○星野家・リビング(朝)(雨)


   梅雨どきの大雨が降っている。

   64インチのテレビ。

   流れているのは朝の情報番組。


泰輔 「あ、昇多の」


   身支度をする泰輔。

   テレビ画面に顔を向ける。


正隆 「おぉ、始まったか」


   テレビ画面を注視する正隆と泰輔。

   喜代はキッチンで弁当を作っている。

   無我夢中で朝食を食べ続ける星野。


○撮影スタジオ(朝)


   撮影用に組まれた家のセット。

   スタッフが慌ただしく出入りする。


○同・控室(朝)


   俳優たちが集まっている。

   年上の俳優たちから可愛がられる星野。


星野N 「映画の撮影を終えてすぐに始まったドラマの撮影。そこでの頑張りが関係者らから認められ、いつからか、 ”今を時めく話題の子役” と呼ばれ始めた。そして、どんな役を与えても、当たり役と必ず言わせるほどの演技で人々を魅了していたために、ドラマを担当している監督から ”カメレオン星野” などとキャッチコピーを付けられてしまうほどだった。自分で言うのも変だが、このあとも、人気・実力共にうなぎ上りを続けていく」 

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