1-1

○代行サービス運否天賦の外観(朝)

 市街地にある8階建ての商社ビル。

 建物にスーツ姿の会社員たちが入って行く。


○同・社内(朝)

   出社している社員11名が、各々会話をしている。

   社員の性別も年代もバラバラ。

   そして、思い思いの格好をしている。

   部屋の奥にある大きなスクリーン。

   リモート画面に映る社員たち。 


男性社員A 「(独り言)思ったより社員数いるもんだな」


   ゆっくりと歩いて来る星野昇多(26)。

   ワイシャツにスラックスという姿。

   腕には安物の腕時計をしている。


女性社員A 「やっぱイケメン」


   デスクの前で立ち止まる星野。

   社員たちは静かになる。


星野 「おはようございます」

社員たち 「(バラバラに)おはようございます」


   リモート画面の社員たちは遅れて頭を下げる。


星野 「えー、社長の星野昇多、26歳です。誕生日は11月16日です。年齢イコール童貞なんですが、アハハ。まぁ、そのせいですかね、男子校なのに彼女ができた奴のことを、どこか蔑んだ目で見ていました。あ、でも大丈夫ですよ、今はもうそんなことはありませんし、社内恋愛を禁止しているわけでもありませんので、ご自由に人生を謳歌していただけたらと思っております」


   軽く頭を下げる星野。

   女性社員A、目をパッと見開き、


女性社員A 「(緊張して)あの、ちょっといいですか?」

星野 「はい」

女性社員A 「星野さんって、以前、芸能活動されてました?」


   社員たち、隣同士で話し始める。

   星野、頭を掻く。


星野 「(照れながら)はい……、俳優を、やってました」

女性社員A 「(嬉しそうに)やっぱり、ですよね!」

男性社員B 「(興奮して)まじか! すげーっ!」

女性社員B 「あぁ、通りで見覚えあると思った」


   星野、苦笑いを浮かべる。

   収まらない空気。


星野 「あと、先にお伝えしておきますが、副社長は別件で出張しておりますので、明日からの出社となります。えーっと、まあ、ざっとした自己紹介になりましたが、ユーザーの満足度が高いサービスを目指して、一緒に頑張っていきましょう。今日から、どうぞよろしくお願いします」


   ×    ×    ×


   社員たちと同じ空間にいる星野。

   同じ黒色のノートパソコンが並ぶデスク。

   依頼主から投稿されたメッセージが表示されてる。

   その画面とにらめっこする社員たち。


星野N 「うちの会社で働く社員は男女合わせて33人。そのうち20人は出社せず、自宅からオンラインを通して働いている。子育てをする者、会社のある場所から遠く離れた地方で働く者、海外でのんびりと生活しながら働いている者、訳あって自宅から出られない者・・・、と、多様性の時代に合わせて、年齢も性別も、髪色も髪型も、服装も、とにかく様々な社員がいる」


   隣に座る男性社員に話しかけられる星野。

   デスクの上は資料でいっぱいな状態。

   星野、指しながらアドバイスをする。


星野N 「代表である僕が、社員に懇願したことがある。それは、”代表”ではなく”星野”か”星野さん”と呼んでもらうこと。その理由は、社員全員に対し、代表という立場ではなく、皆と一緒に働くイチ社員として扱って欲しいから」


   男性社員、星野の話を聞きながら頷く。

   星野はジェスチャーで伝える。


星野N 「働く社員は、僕も年上、しかもひとまわり以上の率が高い。それだけではなく、LGBTの当事者という社員も働いていたりと、社員全員を通して個性豊かで、雰囲気も和気藹々としているのも特徴だ」


   壁に貼られている紙。

   そこには、明日は我が身、と書かれてある。


星野N 「そして、もう1つ、僕が社員にお願いしていることがある。誰かのミスにより、何かしらのトラブルが発生したとしても、その人自身を責めない、ということ。誰しもが、明日は我が身、という状態に置かれているのだから」


   星野から肩を叩かれる男性社員。

   デスクに戻り、再び仕事に打ち込み始める。

   星野は男性社員を見ながら優しく微笑む。


星野N 「こんな僕だけれども、実は少しだけ変わった経歴を持っている。今となっては懐かしくて、酒が入れば腹を抱えて笑える話なのだが―――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る