2-1

○総合病院・外観


○同・小児科病棟廊下


   ドアや壁に、アニメチックな動物たちがデザインされている。

   その廊下を行き交う子供とその保護者。

   看護師がカートを押しながら歩いている。


○同・休憩スペース

   マットが敷かれている休憩スペース。

   小さなベンチが設置されている室内。

   入院中の子供たちが遊んでいる。

   男子4人グループが座って話し込んでいる。

   その中にいる小笠原悠月(9)。

   青色のアウターを羽織っている。


小笠原「オレの名前は小笠原悠月。6月8日の誕生日で10歳になるよ。義務教育だから小学校には在籍してるけど、今は全然学校に行ってない。3年生の夏休み終わりまでは元気に登校できてたんだけどね。あ、でもオレ学校大好きだから、早く行きたいって思ってるよ。それに、野球やってたから、早くチームに戻って練習もしたいんだよね。でも、今は難しいみたい。しばらくはココで入院生活。本当は寂しいけど、パパやママ、あとお兄とお姉に心配とか迷惑かけるなんて駄目だから、明るく元気に頑張らないとなって。あっ、ねぇねぇ、君はどんな病気に罹ってるの?」

藤岡 「えっと、ぼくは――」


   藤岡が恥ずかしそうに語り始める。

   小笠原の隣には、塩崎楓真(6)が座っている。

   小笠原、塩崎の頭を撫でながら、相づちを打つ。


小笠原N 「田舎でも、ちょっと都会の総合病院4階にある小児科病棟。その一室、小さめの1人部屋に入院しているのが、小学4年生のオレ、小笠原悠月だ。小柄だけど女子ウケ抜群の顔つきをしていて、そして、誰よりも明るくいる自信があって、オレは自分の性格を、ひと言で言ってしまえば、みんなを引っ張っていくリーダータイプだと思っている。多くの人から尊敬されたいっていう気持ちが強いけど、なかなかうまくいかないから、色々苦労してるんだけどね」


   藤岡の語りが終わる。

   すると戸田が藤岡に話しかける。


戸田 「なぁ、お前の将来の夢って何?」

藤岡 「ぼくはね、自動車整備士」

戸田 「へぇ、かっけぇな。ちなみに俺は芸能人」

小笠原 「まだ変わってないんだ」

戸田 「当たり前だろ。俺は芸能人になって、色んな女優に会いたいんだよ」


   戸田の発言に笑う小笠原と

   塩崎はきょとんとした顔を浮かべている。


藤岡 「えっと、小笠原くん」

小笠原 「悠月でいいよ」

藤岡 「悠月の将来の夢は?」

小笠原 「オレの将来の夢は、プロリーグで活躍できる野球選手になることだよ。まぁ、でも今の状態じゃ、野球どころかスポーツすらもやっちゃダメだって先生から言われてるから、違う将来の夢も探そうかなって。もちろん、野球関連のね」

藤岡 「そうなんだ」

塩崎 「ゆづ、野球選手ならないの?」

小笠原 「今は難しいかな」

塩崎 「えー」

小笠原 「でも、オレは病気を治して、絶対野球選手になる。それで、いつか病気の子たちを勇気付けられる選手になる」

戸田 「かっけぇこと言うじゃん。俺には到底真似できねぇー」


   笑顔を浮かべ、笑い合う4人。


小笠原N 「正直、将来の夢を語ることは苦しかった。オレには野球しかないと思っていたから。病気が治らなければ野球もできない。つまり、生きている意味がないも同然。野球選手になるって夢、早く諦めたほうがいいんだろうけど……、そう簡単には諦めがつかないよ」


戸田 「楓真の夢は、サッカー選手だもんな?」

塩崎 「違うよ。楓くんの夢は、パパみたいな警察官!」

藤岡 「へぇ、楓真くんのお父さんって警察官なんだ」

塩崎 「そうだよ! カッコいいよ!」

小笠原 「じゃあ、警察官になるためにも、楓真も頑張らないとな」

塩崎 「うん! 頑張る!」


○同・小笠原の病室(夕)


   壁に貼られたプレート。

   小笠原悠月の文字。


○同・中(夕)


   ベッドに腰かけている小笠原。

   棚に置いてある家族写真を眺めている。

   その写真には、小笠原家5人が笑った状態で写っている。


小笠原N 「オレは、家族の前では一切弱みを見せないと決めている。銀行員のパパと会社員のママに厳しく躾けられ、喧嘩が強い5コ上のお兄と、正義感の強い2コ上のお姉から散々言われながら育ってきた。幼少期の頃から、泣いたとしても一切慰められたりすることはなく、『泣くなんて恥ずかしいからやめなさい』などと言われて、怒られるばっかりだった。そのこともあって、いつからかオレは人前で泣けなくなり、誰の前でも気丈に振る舞い、強がってしまう癖がついてしまっていた」


   小笠原は、写真立てを伏せる。

   そして、窓の外をぼんやりと眺め始める。


小笠原N 「一刻も早く、入院生活にピリオドを打って、野球漬けの毎日を過ごしてやる。絶対に」

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