第3話 出発
姉が帰ってから一年の時が経った。
明日は学園の入学に必要な試験の日、自分が発揮できる最大を出す為に最後まで剣と魔法の調整をする。
テストと実技の評価の割合の対比は3対7であり、強さが重視される剣魔学園では妥当な評価基準だと言える。
どこかにはテストを捨て実技だけで通過する者もいるらしい。だけど俺にそれができるとは思わない。
何年間も努力したが才のなかった俺は入学するため記述、実技どちらでも取らないと入学できないのは分かりきっている。
明日に対戦する相手と明日に出されるテストに出される問題はわからないけど、テストについてはしっかり勉強したから自信が猛烈にある。
問題は対戦相手だ。
試験官に自分の実力を魅せつけないと好評価は与えられない。
まあそんなことを今考えても無駄だろうと思い、再び調整にはいる。
調整して3時間程の時間が経つ。すっかり太陽は登り、昼になってしまった。
「ハルト!そろそろ時間!」
「はい!母様!」
明日の試験は帝都で行われる為、王都の外れで住んでいる俺は馬車で移動しなければならない。その馬車が俺の家に迎えに来たようだ。
「ハルト、試験頑張ってくるのよ?」
「絶対勝ってこいよ!」
「行ってらっしゃい!」母様と父様は声を合わせながらそう言った。
「はい頑張ります!行ってきます!!」
手を大きく振って馬車に引き籠る。
一時の別れを告げた後で馬車が前進し始めた。なぜか俺は試験にワクワクしている。
自信があるわけでもないのにどうして?と疑問に思ったが、帝都が見えてからはそんな疑問をすっかり忘れた。
帝都は大きく森の中からでもよく見える。真っ白の城壁、目が痛くなるほどの建物、城門に集まる馬車の数、自分にどのような出会いがあるのか考えるだけで好奇心が止まらない。
進み始めて2時間ほど経った時、馬車で睡魔に襲われ頭をうとうとしていると、あと少しで森を抜けかけていた所で馬車が突然止まった。それで目が覚め、嫌な予感が脳裏を過った。
外を見回すと森からゾクゾクとゴブリンが群がってきた。
数は8体、ゴブリンは下級の魔物で森の浅い場所でしか出てこない。森の奥に行く程階級も上がり魔物の魔力、力は強くなる。
剣を振り上げ、威嚇する奴、棍棒をぶん回しながら鋭い目つきを飛ばしてくるもの。他にも弓を持っているゴブリンもいた。
俺は良い機会だと思ったので自分の実力を知るためにも馬車から降りて戦うことにする。
馬車から降りた時にはすでにゴブリンが馬車を囲うように包囲していた。
「力試しと行こうか!!かかってこいゴブリン共!!」
ゴブリンは下級の魔物の癖に頭を使って攻撃をしてくる。
「ブギャャャャャャ」
叫びながらまずは剣を持つゴブリンが俺へ向かって前進してくる。
構図は弓ゴブリン二体が俺の真横の両端で弓を構えていて、正面からは剣を持ったゴブリンが前衛後衛二体ずつで走ってきている。
後ろに棍棒を持ったゴブリンが走る素振りすら見せないものの立ちはだかっている。
俺はまず氷魔法を正面に放つ。
「冷え盛れよ!」
正面に尖った氷の刃を五つ程飛ばす。ゴブリンを足止めするには下級の一節呪文で十分、そこから俺は体の向きを真横に変え、迷いなく走る。
弓を持ったゴブリンは焦る様子を見せながら弓を構え矢を放つ。
その動作を見ながら俺は、得意な風魔法を放つ。
「吹き荒れよ!」
目の前の空間に風が交差する丸い球体が現れて飛んできた矢を粉々にする。ゴブリンは弓を捨て殴りかかってこようとするがもう遅い。
間合いは1mもない。心臓に剣を突き刺す。
「まずは1匹、次はどいつだ!」
ゴブリンの1匹が仲間の仇を討とうとするように攻めてきたので俺は土魔法を放つ。
「隔たれよ!」
魔力を調節することでゴブリンの五分の一程度の壁をゴブリンの足の前に作り出す。勢いよく走ってきていたゴブリンはそれに躓き、前に倒れる。
「2匹目!」
そう叫びながらそれも心臓に剣を突き刺し、確実に死ぬように突き刺したままの手首をグリンと右に回す。心臓を抉るグロイ音が出たが気にしなかった。
残りの6体は敵わないと分かったのか足を止めて後ろに下がる。
「3匹目ェェェ!4匹目ェェェ!5匹目ェェェ!6匹目ェェェ!7匹目ェェェ!最後だァァァ!」
俺は身体強化で足を速め、氷魔法でゴブリンの足を凍らせ武器を落とし反抗できないゴブリンの首を斬りまくる。
ゴブリンはブギィィィィと叫びながら次々と倒れていく。
時間は一分も要さない。
何事もなかったように俺は馬車へ乗ったことに馬車の御者はすこし驚いていたが、何も聞きはしなかった。
ゴブリン退治と帝都が大きく遠くからでも近く見えたせいか、すぐ着くと思っていたが、実際には5時間ほどかかった。太陽は地平線に沈みかけている。
宿は用意しているので、今日はゆっくりして明日に備えるだけだ。宿でご飯を食べていると周りの席から話し声が聞こえる。
「明日剣魔学園試験あるらしいじゃねぇか?あれビル・グロリダ侯爵の天才令嬢が首席合格するんじゃねえかって予想されてるらしいぜ?」
「いや、俺はクリス・ブリングスの男爵とこの息子だと思うね!」
そんな無駄な論争が聞こえたが俺は無視して宿の部屋に戻った。このようなことを聴いて気分を落とされ調子を崩されては困るから。宿に戻った後は元から少し睡魔に襲われていたからなのか、剣を研ぐことを忘れすぐに寝てしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます